裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」の意義
裁判官分限事件に対する決定に対する抗告事件
【事件番号】 最高裁判所大法廷決定/平成10年(分ク)第1号
【判決日付】 平成10年12月1日
【判示事項】 1 裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」の意義
2 裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法52条1号と憲法21条1項
3 裁判官が積極的に政治運動をしたとされた事例
4 裁判官が積極的に政治運動をしたことがその職務上の義務に違反するとして当該裁判官に対し戒告がされた事例
5 裁判官分限事件への憲法82条1項の適用の有無
6 民事訴訟又は非訟の手続において期日に立ち会う代理人の数を制限することの可否
【判決要旨】 1 裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものをいい、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、行為の内容、行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。
2 裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法52条1号の規定は、憲法21条1項に違反しない。
3 裁判官が、その取扱いが政治的問題となっていた法案を廃案に追い込もうとする党派的な運動の一環として開かれた集会において、会場の一般参加者席から、裁判官であることを明らかにした上で、「当初、この集会において、盗聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加すれば懲戒処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」との趣旨の発言をした行為は、判示の事実関係の下においては、右集会の参加者に対し、右法案が裁判官の立場からみて令状主義に照らして問題のあるものであり、その廃案を求めることは正当であるという同人の意見を伝えるものというべきであり、右集会の開催を決定し右法案を廃案に追い込むことを目的として共同して行動している諸団体の組織的、計画的、継続的な反対運動を拡大、発展させ、右目的を達成させることを積極的に支援しこれを推進するものであって、裁判所法52条1号が禁止している「積極的に政治運動をすること」に該当する。
4 裁判官が積極的に政治運動をしたことは、裁判所法49条所定の懲戒事由である職務上の義務違反に該当し、当該行為の内容、その後の態度等判示の事情にかんがみれば、当該裁判官を戒告することが相当である。
5 裁判官分限事件には、憲法82条1項は適用されない。
6 民事訴訟又は非訟の手続を主宰する裁判所は、その手続を円滑に進行させるために与えられた指揮権に基づいて、期日を開く場所の収容能力、当該期日に予定されている手続の内容、裁判所の法廷警察権ないし指揮権行使の難易等を考慮して、必要かつ相当な場合には、期日に立ち会う代理人の数を合理的と認められる限度にまで制限することができる。
(1、3ないし5につき反対意見がある。)
【参照条文】 裁判所法52
憲法21-1
裁判所法49
裁判官分限法2
憲法82-1
裁判官の分限事件手続規則7
民事訴訟法55
民事訴訟法148
非訟事件手続法6
非訟事件手続法13
刑事訴訟法35
刑事訴訟規則26
刑事訴訟規則27
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集52巻9号1761頁
憲法
第二十一条1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
② 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
裁判所法」
第四十九条(懲戒) 裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。
第五十二条(政治運動等の禁止) 裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。
一 国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。
二 最高裁判所の許可のある場合を除いて、報酬のある他の職務に従事すること。
三 商業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。
裁判官の分限事件手続規則
第七条 特別の定めのある場合を除いて、分限事件に関しては、その性質に反しない限り、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第二編及び非訟事件手続規則(平
成二十四年最高裁判所規則第七号)の規定を準用する。ただし、同法第四十条の規
定は、この限りでない。