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2024年04月09日
会社法の令和元年改正2-2 第2章 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備

第2章 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備

改正で、株主提案権の濫用的行使の防止に関する規律が新たに設けられたので、これについて解説します。

1,改正の背景

株主総会では通常、会社側が提案した決議事項が審議、決議されますが、法律上、一定の要件のもとで、株主の方から決議事項を提案することが可能です。今回の改正では、株主総会で株主から100件の議案が提出されたなどの事例も踏まえ、円滑な株主総会運営のため株主の権利の濫用を抑制するべく、株主の議案の提案権に数量制限が加えられます。

 

旧法上、株主(取締役会設置会社の場合、一定の持株比率等の要件を満たす株主)は、自己が株主総会に提出しようとする議案の要領を、予め招集通知に記載して各株主に通知するよう、会社に請求することができました。

近年、1人の株主が膨大な数の議案が提案されたり、株主から会社を困惑させる目的で議案が提出されたりするなどの株主提案権の濫用ともいうべき事態が発生しており、これにより、株主総会における審議時間等が無駄に割かれ、株主総会の意思決定機関としての機能が害されたり、株主総会における検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加したりする弊害が生ずることが指摘されていました。このような濫用的な株主提案権の行使について 歯止めが必要な状況となっていました。

2,提案の個数制限

そこで、今回の改正では、株主の提案できる議案の数について、10個を上限とするなど、濫用的行使を防止する対策がとられました(改正法305条4項・5項)。

 

改正法305条4項は、株主が305条1項に基づいて議案を提出しようとしている場合において、 株主の提出しようとする議案の数が10を超える場合には、10を超えた議案の数については305条1項から3項が適用されない、 つまり議案の要領の通知請求権がない、ということを定めています。

すなわち、株主が一つの株主総会において議案の通知を請求することのできる議案の数は10まで、ということになります。 なお、議場において提案する議案の数に制限が加えられたわけではないので、この点は注意が必要です。

3,議案数の数え方

 役員等(取締役・会計参与・監査役または会計監査人)の選解任等議案は、役員等の数にかかわらず1つと数え、制限議案数に含めて数えることとなります。

 

 定款変更議案については、従前、関連性のない多数の条項を追加する定款変更議案であっても、株主が当該議案を分けて提案しない場合は、形式的には1つの議案として扱われる場合がありました。これが1つの議案として扱えることになると、議案数の制限の潜脱が容易になってしまいます。そこで、改正法では、「2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを1の議案とみなす」と定めることとされました(改正法305条4項4号)。相互に矛盾するか否かの判断は、解釈に委ねられることになります。

 

では、10個の議案はどのように算出するのでしょうか。議案の数の数え方については、改正法305条4項各号が規定しています。

役員等の選任、役員等の解任、会計監査人の不再任については、議案の数にかかわらず1個の議案とみなされます(改正法305条4項1号、2号、3号)。 なお、「役員等」とは取締役、会計参与、監査役、会計監査人の総称とされています(改正法305条4項1号かっこ書き)。

次に、定款変更に関する2以上の議案については、当該2つ以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性があるような場合には 1つの議案とみなす、としています。2つ以上の定款変更が密接に連動しているような場合は1つとみなす、という趣旨です。

4、上限を超えた提案

 上限を超える数の議案が提案された場合、会社は上限超過部分の提案を拒絶することができます。上限を超える数の議案の決定方法について、株主が議案の優先順位を定めていない場合は取締役が定める順位に従い、株主が優先順位を定めた場合は、その順位に従うこととなります(改正法305条5項)。

 

これまで述べてきたように、改正法305条4項は10を超える数に相当する議案について株主提案権を認めないとするものです。では、 10を超える数に相当する議案が提出された場合、どの議案を取り上げるか、はどのように決めるのでしょうか。

 

改正法には、10個の具体的なカウントの仕方や、10を超過した場合にどの議案を採用するかに関するルールなどが定められています。

 

この点について改正法305条5項本文は、取締役が定める、としています。したがって、10を超える数の議案が提出された場合、原則として取締役が株主提案権の行使を認めない議案の決定を行うことになります。

 

しかし、株主が議案の提出の際に、 株主が提出しようとする2以上の議案の全部、又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、 取締役は、当該優先順位に従いこれを定める、とされています(改正法305条5項ただし書)。 すなわち、議案の提出を行う株主が優先順位をつけてこれを行った場合、優先順位に従って10を超える数に相当する議案を定める、 ということです。

取締役が自己に都合の良い議案を優先的に取り上げるような濫用的な事態を防止する趣旨です。

 

なお、株主総会の決議事項は、定款変更、取締役3名選任といった決議のテーマを示す「議題」と、定款の新旧対照表や取締役候補者といった具体的な決議内容を意味する「議案」から構成されます。株主には、「議題」を提案する権利(会社法第303条)、株主総会の会場で動議として「議案」を提案する権利(同第304条)、提案しようとする「議案」を予め招集通知に記載請求する権利(同第305条)がありますが、今回の数量制限は、最後の提案しようとする「議案」を予め招集通知に記載請求する権利のみを制限するものとなります。

5,国会での議論

 国会に提出された改正法案では、株主提案権に関して、もっぱら人の名誉を侵害し、侮辱する等の目的でなされた場合や、株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合には、会社は株主提案を認めないとする明文の規定が置かれていましたが、審議過程で削除されることとなりました。ただし、濫用的な株主提案権の行使を拒否できる場合があること自体が否定されたものではありません。

 

本改正は、取締役会設置会社のみに適用され、株主によるガバナンスが重視される取締役会非設置会社には適用されません。また実務的には、非上場会社では株主が議案を提案すること自体稀ですので、主に改正の影響を受けるのは上場会社と思われます。

 

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