第7部 実務への影響
第1章 株主総会実務への影響
株主総会実務に与える影響としては、当面、取締役の報酬等の規律の見直しに伴う対応や、事業報告における開示事項の拡充への対応が主要なトピックになると思われます。株主提案権の濫用的行使の制限については、近時の動向からすれば、適用場面は限定的でしょう。
株主総会実務との関係でも、取締役の報酬等の規律の見直しに伴い、報酬関連事項の事業報告への記載事項が拡充され、株主総会当日における取締役の説明義務が重くなるものと考えられます。コーポレートガバナンス・コードにおいても業績連動性や自社株報酬を適切に設定することが求められており(補充原則4-2①)、投資家の関心も高い事項であることから、株主に対してより丁寧な説明が求められるようになるものと考えられます。
また、少し先になりますが、株主総会資料の電子提供制度は、株主総会資料の提供方法を大きく変更するものとなります。
電子提供措置は、前述のように株主総会の日の3週間前の日、または招集通知の発送日のいずれかの早い日から提供を行う必要があります(改正法325条の3第1項)。 開始時期については、遅くとも上記の期日までに行う必要があると定められているのみで、これより早く提供を行うことについては特に定めがないので、 始期はいくら早めてもいいということになります。
現在の株主総会実務において、株主総会の日3週間前、もしくは招集通知の発送日までに参考資料等が完成していないということは考えにくく、 日程的に今よりタイトになることはあまり想定されていません。
電子提供措置は株主との建設的対話にその趣旨が置かれているところ、かかる趣旨を全うすべく、 株主総会における参考資料等の中身のさらなる充実がより求められることになることが予想されます。
電子化により提供情報の量について制約が弱まることになると考えられ、株主との今まで以上の対話が求められることになります。
ただし、書面交付制度が存在していることから、書面の準備はなお必要になってくるものと思われ、 どの程度の書面交付の準備が必要かは今後の株主総会実務の動向を注視していくことが求められます。
なお、今回の電子提供制度は、上場会社について一律に適用されます。
上場会社は振替株式を利用する必要がありますが、今回振替株式制度利用の要件として、 定款に電子提供措置を定めて電子提供措置を採用している会社の株式であることが必要とされました (会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律9条により社債、株式等の振替に関する法律の一部が改正されます)。
特別決議を得て、定款変更を行う必要はなく、改正会社法の施行に伴い、電子提供措置を採用する旨の定款変更決議がなされたものとみなされることになります。
したがって、上場会社においては電子提供措置をとる必要があります。なお、電子提供措置を採用する旨の定款の変更について、 改正法の施行日から6か月以内にこれを行う必要があります。
現在でも、自社ウェブサイト等において、株主総会資料を任意に掲載している例は少なくありませんので、株主総会実務が大きく変わるということではありませんが、投資家からは、株主総会資料の内容の充実化と早期提供が強く要請されており、電子提供制度の開始とともに、情報開示の範囲がより広くなっていくことも予想されます。制度開始に向けて、インフラ面の整備を行うと同時に、株主に対する情報開示の在り方についての実質的な検討も必要となるでしょう。
東証上場会社の98.4%(市場第一部においては99.9%)は社外取締役を置いている(法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」より)。
たとえば野村ホールディングスの2012年の定時株主総会では個人株主が100個の株主提案を行なっている。参考:野村ホールディングス株式会社「第108回 定時株主総会招集ご通知」