東大和市障害児保育園入園不許可事件
保育園入園承諾義務付等請求事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第510号
【判決日付】 平成18年10月25日
【判示事項】 気管切開手術を受けてカニューレを装着している児童につき,東大和市に対し,保育園への入園を承諾することを義務付けた事例
【参照条文】 行政事件訴訟法37の3
行政事件訴訟法3-6
児童福祉法24-1
【掲載誌】 判例タイムズ1233号117頁
判例時報1956号62頁
行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
第三十七条の三 第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。
2 前項の義務付けの訴えは、同項各号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる。
3 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。
一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え
二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え
4 前項の規定により併合して提起された義務付けの訴え及び同項各号に定める訴えに係る弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない。
5 義務付けの訴えが第一項から第三項までに規定する要件に該当する場合において、同項各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決をすべき旨を命ずる判決をする。
6 第四項の規定にかかわらず、裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、第三項各号に定める訴えについてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、当該訴えについてのみ終局判決をすることができる。この場合において、裁判所は、当該訴えについてのみ終局判決をしたときは、当事者の意見を聴いて、当該訴えに係る訴訟手続が完結するまでの間、義務付けの訴えに係る訴訟手続を中止することができる。
7 第一項の義務付けの訴えのうち、行政庁が一定の裁決をすべき旨を命ずることを求めるものは、処分についての審査請求がされた場合において、当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効等確認の訴えを提起することができないときに限り、提起することができる。
児童福祉法
第二十四条1項 市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第三条第一項の認定を受けたもの及び同条第十一項の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない。
主 文
1 処分行政庁が原告甲野太郎に対して平成17年2月23日付けでした原告甲野春子の保育園入園を承諾しない旨の処分を取り消す。
2 処分行政庁が原告甲野太郎に対して平成17年3月23日付けでした原告甲野春子の保育園入園を承諾しない旨の処分を取り消す。
3 処分行政庁は,原告甲野太郎に対し,原告甲野春子につき,A保育園,B保育園,C保育園,D保育園又はE保育園のうち,いずれかの保育園への入園を承諾せよ。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの連帯負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項から第3項までと同旨。
2 被告は,原告らに対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成17年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)が,処分行政庁に対し,こう頭軟化症等のための気管切開手術を受けてカニューレ(のどに開けた穴に常時装着して気管への空気の通り道を確保する器具)を装着している長女の原告甲野春子(以下「原告春子」という。)につき,保育園への入園申込みをしたところ,処分行政庁が,原告春子について適切な保育を確保することは困難であるとして,2度にわたって保育園入園を承諾しない旨の処分をしたため,原告太郎が,被告に対し,原告太郎には児童福祉法24条1項本文所定の「児童の保育に欠ける」事由があり,かつ,原告春子はたんやだ液(以下「たん等」という。)の吸引が適切に行われれば,保育園に通園することができることを理由に,上記不承諾処分は違法である旨主張して,被告に対し,上記不承諾処分の取消し及び保育園入園の承諾の義務付けを求めるとともに,原告春子,原告太郎及び同原告の妻で原告春子の母である原告甲野夏子(以下「原告夏子」という。)が,被告に対し,上記入園申込み等をめぐる被告の公務員の対応等が児童福祉法及び行政手続法等に反し国家賠償法上も違法なものであり,これにより損害を被った旨主張して,国家賠償として各自100万円及びこれに対する不法行為の後である平成17年11月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。