仮登記の効力
所有権移転登記抹消登記手続等請求事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和35年(オ)第1299号
【判決日付】 昭和38年10月8日
【判示事項】 仮登記の効力
【参照条文】 不動産登記法7-2
不動産登記法105
民法177
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集17巻9号1182頁
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(仮登記)
第百五条 仮登記は、次に掲げる場合にすることができる。
一 第三条各号に掲げる権利について保存等があった場合において、当該保存等に係る登記の申請をするために登記所に対し提供しなければならない情報であって、第二十五条第九号の申請情報と併せて提供しなければならないものとされているもののうち法務省令で定めるものを提供することができないとき。
二 第三条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権(始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む。)を保全しようとするとき。
(仮登記に基づく本登記の順位)
第百六条 仮登記に基づいて本登記(仮登記がされた後、これと同一の不動産についてされる同一の権利についての権利に関する登記であって、当該不動産に係る登記記録に当該仮登記に基づく登記であることが記録されているものをいう。以下同じ。)をした場合は、当該本登記の順位は、当該仮登記の順位による。
民法
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
主 文
原判決中上告人に建物明渡を命じた部分を破棄し、これを大阪高等裁判所に差戻す。
その余の部分につき上告人を棄却する。
前項につき上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人谷村唯一郎、同塚本重頼の上告理由第一、二点について。
代物弁済の予約の仮登記を経由した場合に、債権者が所有権を取得するのは予約完結の意思表示をしたときであつて、仮登記を経由したときに遡るのではないこと勿論であるが、本登記の順位は仮登記の順位による(不動産登記法七条二項)のであるから、仮登記権利者は、本登記を経由し、または本登記をなすに必要な要件を具備するに至つたときは、仮登記によつて保全された権利に牴触する仮登記後の物権変動を、それが仮登記権利者の所有権取得の時期の前であつても、すべて否認し、その登記の抹消を請求しうるものと解すべきである。論旨は、独自の見解であり(引用の判決も論旨を支持するものではない)、採用できない。
同第三点について。
原判決が所論四五万円の貸金の弁済期を貸付の日から三ヶ月後と認定したことは、その挙示する証拠関係に照して肯認しえなくはない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用しえない。
同第四点について。
仮登記は本登記の順位を保全する効力があるに止まり、仮登記のままで本登記を経由したのと同一の効力があるとはいえない。したがつて、本登記手続が終るまでは、上告人は被上告人の右登記の欠缺を主張しうる第三者に該当し、被上告人は上告人に対しその所有権の取得を対抗しえない筋合である(昭和三二年六月一八日最高裁判所第三小法廷判決、民集一一巻六号一〇八一頁参照)。原審は、被上告人の本件建物明渡請求が即時履行を求める趣旨であるならば、本登記が経由されたかどうかを審理し、あるいは本明渡請求が本登記を経由することを条件とする将来の履行を求める趣旨であるならば、その点を明確ならしめた上判断すべきであるのに、原判決が、被上告人の本件建物所有権にもとづく明渡の請求を、被上告人が本登記を経由したことを確定せずに漫然認容したのは、仮登記の効力を誤解したか或は理由不備の違法があるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決中被告人の建物明渡請求を認容した部分は破棄を免れない。
よつて、本件上告中本件建物の所有権取得登記の抹消登記手続を命じた部分に対する上告は棄却し、本件建物の明渡を命じた部分は原裁判所に差戻すべきものとし、上告理由第五点に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷