社会保障法の内容
社会保障法は司法試験の選択科目とされていない。
法務省は司法試験の選択科目とするためには、学問として確立していること(受験生から見れば学習範囲が明確であること)、大半の法科大学院で4単位以上であることを目安としている。
仮に選択科目になった場合には、司法試験に合格するためには、法科大学院の授業・ゼミが最低でも合計8単位は必要であろう。
社会保障法の対象となる法律の範囲は、下記の法律である。
社会保障法には、社会保険法、社会福祉法、それ以外の分野がある。
社会保険法とは、雇用保険法、健康保険法、国民健康保険法、厚生年金保険法、国民年金法、介護保険法、労働者災害補償保険法などである。
社会保険以外の分野の社会福祉法は、生活保護法、児童福祉法、児童手当、障がい者福祉、老人福祉、介護保険法、被爆者援護などである。
社会保障法には、上記のほか、障がい者の雇用の促進等に関する法律、労働者災害補償保険法などの労働関連法を含む場合がある(例えば、『社会保障法判例百選』など)。
また、社会保障法は、社会福祉の分野である高齢者・障がい者・児童なども対象とされているので、関連分野として、医事法も含まれることがある。
新司法試験で選択科目とするように日弁連は提言したが、採用されなかった。
司法試験で選択科目に採用されなかった理由として、
① 行政法と学習範囲が重複するし、
② 法科大学院でも開講している学校も少なく、2単位が多いとされている。
③ 社会保障法は技術的規定が多く、思考力を問う司法試験にふさわしくないとの指摘がある。この点、確かに社会保険法(雇用保険法、健康保険法、国民健康保険法、厚生年金保険法と国民年金法、介護保険法、労働者災害補償保険法など)は、各法律ごとに、保険者についての規定、被保険者の加入資格、各種の手当ごとの支給要件・支給停止や打ち切りの要件、併給調整に関する規定が多い。対象となる法律や条文の数は多いものの、同工異曲の規定が多い、
④ 新しい分野であり、学問的に確立しているとはいえないのではないかと指摘されている。
しかし、学習範囲があまり明確ではない環境法(司法試験で選択科目とされている)と比較しても、社会保障法の対象となる法律は多数あるが、学習すべき範囲は比較的明確である。
社会保障法は国民全員にとって必須であり、今後の裁判例の集積も見込まれる。
最高裁判例は、労働者災害補償保険法、国民年金法、厚生年金保険法等に関して、存在する。
そして、社会保障法は、一般の行政法と異なり、原則として行政不服審査法が適用されず、審査官等の処分に不服がある場合には、審査請求、再審査請求、行政訴訟という手続の流れになるので、特殊性・専門性がある。
私は弁護士になってから、筑波大学院のときに、社会保障法の講義を受講し、教授の配布するテキスト(未公刊)を読んだ。
ただし、社会保障法は毎年改正されているので、講義を受講し、テキスト1~2冊と判例百選を読み終えたら、個別の条文を読んだほうが良いのではないかと思われる。刊行年の古いテキストでも、法律の幹となる構造や立法趣旨がおおむね理解できるが、法律改正によって、制度・条文が変わってしまうと、古いテキストはかえって良くないからである。
社会保障法のうち社会保険は社会保険労務士試験の必須科目である。社会保険に関する法律にについては、私は弁護士になってから、社会保険労務士試験のテキストを読んだ。
社会保険労務士試験の対象は(社会保険労務士法9条)、大別して、労働法と社会保険法であり、労働法以外の社会保険法の分野は、
① 労働者災害補償保険法、
② 雇用保険法
③ 労働保険料徴収法、
④ 健康保険法、
⑤ 厚生年金保険法、確定拠出年金法、確定給付型企業年金法
⑥ 国民健康保険法
⑦ 国民年金法
⑧ 労働・社会保険の常識(後期高齢者医療、介護保険法など)である。
[社会保険法以外の法律]
生活保護法
社会福祉法
高齢者の医療の確保に関する法律(注、前期・後期高齢者の医療を定めた法律)
介護保険法
老人福祉法
児童福祉法
児童手当法
高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律
障がい者基本法
障がい者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律
障がい者の雇用の促進等に関する法律
精神保健及び精神障がい者福祉に関する法律
「高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」