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2024年05月15日
公正証書の内容となる法律行為の法令違反等に関する公証人の調査義務

公正証書の内容となる法律行為の法令違反等に関する公証人の調査義務

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/平成6年(オ)第1886号

【判決日付】      平成9年9月4日

【判示事項】      公正証書の内容となる法律行為の法令違反等に関する公証人の調査義務

【判決要旨】      公証人は、法律行為についての公正証書を作成するに当たり、聴取した陳述により知り得た事実など自ら実際に経験した事実及び当該嘱託と関連する過去の職務執行の過程において実際に経験した事実を資料として審査をすれば足り、その結果、法律行為の法令違反、無効及び無能力による取消し等の事由が存在することについて具体的な疑いが生じた場合に限って、嘱託人などの関係人に対して必要な説明を促すなどの積極的な調査をすべき義務を負う。

【参照条文】      公証人法26

             公証人法執行規則(昭和24年法務府令第9号)13

             国家賠償法1-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集51巻8号3718頁

 

公証人法

第四章 証書ノ作成

第二十六条 公証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及行為能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス

 

公証人法執行規則

第十三条 公証人は、法律行為につき証書を作成し、又は認証を与える場合に、その法律行為が有効であるかどうか、当事者が相当の考慮をしたかどうか又はその法律行為をする能力があるかどうかについて疑があるときは、関係人に注意をし、且つ、その者に必要な説明をさせなければならない。

2 公証人が法律行為でない事実について証書を作成する場合に、その事実により影響を受けるべき私権の関係について疑があるときも、前項と同様とする。

 

国家賠償法

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 

事案の概要

 一 本件は、法律行為に係る公正証書作成の際の法律行為の内容の適法性に関する公証人の審査権、審査義務について、最高裁として初めての判断をしたものである。

 原告は、公正証書の内容の法令違背につき公証人に過失があるとして国家賠償を求める。

本件公正証書は、K協同組合を債権者、A(原告の子)を債務者、原告外一名を連帯保証人とする執行証書であり、AがK協同組合の加盟店から買い受けた衣類等の買掛代金268万2040円を準消費貸借の目的とし、元金分割払、利息年1割5分、遅延損害金3割という内容であった。

準消費貸借の旧債務のうち210万3195円は割賦販売法30条の3の適用を受ける立替払契約に基づくもので、これを準消費貸借にしても同条の適用があると解されるから、法定利率を上回る損害金等の約定は同条に違反していた。

 原判決は、公証人には、本件公正証書作成に用いられた公正証書作成嘱託委任状定型用紙についてK協同組合から司法書士を介して相談を受けた際に組合と顧客の取引関係について資料を提出させてこれを把握する義務があり、さらに、本件嘱託を受けた際に旧債務(加盟店から買い受けた衣類等の買掛代金)に同条の規制を受ける債務がないか確認することにより同条違反の本件公正証書の作成を避けることができたとして、これと因果関係のある損害4万円(K協同組合に対する請求異議訴訟の弁護士費用及び慰謝料)の賠償を被告国に命じた。

 二 本判決は、まず「公証人が公正証書の作成の嘱託を受けた場合における審査の対象は、嘱託手続の適法性にとどまるものではなく、公正証書に記載されるべき法律行為等の内容の適法性についても及ぶ」と説示し、公証人の調査義務の判断基準について判決要旨のとおり判示した上で、本件においては同条違反についての具体的疑いが生じたとはいえず、旧債務の内容等について積極的に調査する義務があったとはいえないと判断して、原判決中の被告国の敗訴部分を破棄して、原告の請求を全部棄却すべきものとした。

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