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2024年06月02日
訴状に被告として表示されている者が裁判所に対する訴状の提出後その送達前に死亡した場合において、相続人が、異議を述べずに被告の訴訟を承継する手続をとり、第1、2審を通じて、自ら進んで訴訟行為をしたなど判示のような訴訟の経過(判決理由参照)のもとでは、相続人において、本件訴状の被告が死者であるとして、上告審において自らの訴訟行為の無効を主張することは、信義則上許されない。

訴状に被告として表示されている者が裁判所に対する訴状の提出後その送達前に死亡した場合において、相続人が、異議を述べずに被告の訴訟を承継する手続をとり、第1、2審を通じて、自ら進んで訴訟行為をしたなど判示のような訴訟の経過(判決理由参照)のもとでは、相続人において、本件訴状の被告が死者であるとして、上告審において自らの訴訟行為の無効を主張することは、信義則上許されない。

 

 

              家屋明渡請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和39年(オ)第1403号

【判決日付】      昭和41年7月14日

【判示事項】      信義則上訴訟行為の無効を主張しえないとされた事例

【判決要旨】      訴状に被告として表示されている者が裁判所に対する訴状の提出後その送達前に死亡した場合において、相続人が、異議を述べずに被告の訴訟を承継する手続をとり、第1、2審を通じて、自ら進んで訴訟行為をしたなど判示のような訴訟の経過(判決理由参照)のもとでは、相続人において、本件訴状の被告が死者であるとして、上告審において自らの訴訟行為の無効を主張することは、信義則上許されない。

【参照条文】      民事訴訟法1編第4章第1節

             民事訴訟法208

             民事訴訟法229

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集20巻6号1173頁

 

 

事案の概要

 本件は、訴状に被告として表示されている者が原告が裁判所に対し訴状を提出した時には生存していたが、その訴状が「被告」に対し送達手続中死亡してしまつた場合において、その訴訟はどうなるのか、また、被告の相続人がその訴訟を承継したときはどうなるのかという点についての最高裁判所として、はじめての判断である。

 かつて、訴訟係属の効果の発生時期については、訴状提出時説(細野「要義」2巻216頁加藤「要論」385頁、大審判昭和11年10月20日法学6巻106頁)が有力であつた。

この説に立てば、本件の訴訟手続はなんら問題ではない。

しかし、最近の有力説である訴状送達時説(兼子「体系」173頁、三ケ月「全集」331頁、岩松=兼子編「実務講座」2巻89頁)に立つと、問題は、複雑化する。

おそらく、この後者の説では、死者に対する訴えとして、訴え却下の結論を導くのであろう。

 しかし、相続人から訴訟受継の申立があり、相続人が訴訟を追行した場合にはどうか。

このようなときにも、常に訴却下の結論を出せというのでは、すこぶる不合理な事態をも招来することがある。

 本件はまさにこのような事情にある、そしてそのような事情のときには当事者の確定につきいわゆる行動説(この点について中務「当事者の確定」民訴講座1巻73頁)を、また、いわゆる任意的当事者の変更を認める説(この点については、中務「民訴法演習」I 43頁など)をとるときには、本件の「当事者」は、結局、承継手続をとつた「上告人」らであると認めることもできたはずであるが、当審判決は、これらの点について判断を下さずに、信義則上、自らつくした訴訟行為を無効といえないとした。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告人ら代理人小林茂夫の上告人A、同B、同C関係の上告理由第一点について。

 本件記録によれば、本件訴訟の経過は次のとおりである。即ち、(一)被上告人(原告)が本件訴訟の訴状を第一審裁判所に提出した日時は、昭和三七年三月一三日であり、第一審裁判所の裁判長が第一回口頭弁論期日を指定したのは、同年三月一四日である。(2)第一審裁判所が本件訴状と同三七年四月四日の第一回口頭弁論期日の呼出状とをあわせて被告たるDあてに送達手続をとつたところ同年三月二三日送達された。(3)しかし、被告たるDは、同年三月一六日死亡していたから、第一審裁判所は、右第一回口頭弁論期日を同被告の関係で開かず、口頭弁論期日をおつて指定とする旨の措置をとつた。(4)その後、同年九月一三日に、右Dの相続人たる上告人A、同B、同Cは、弁護士甲斐庸生を訴訟代理人に選任したうえ右Dの訴訟を承継する旨の申立を第一審裁判所に対してしたので、第一審裁判所は右受継を許可するとともに同三七年一〇月三日の口頭弁論期日を開いた。(5)第一審裁判所は、その後一〇回の口頭弁論期日を開き、その審理結果にもとづき、同三八年一二月三日被上告人勝訴の判決をした。そこで、上告人A、同B、同Cほか六名の共同訴訟人は、被上告人を相手方として、控訴の申立をした。(6)第二審裁判所は、右控訴の申立にもとづき、前後三回の口頭弁論期日を開き、その審理結果にもとづき、同三九年九月九日上告人らの控訴を棄却する旨の判決をした。(7)そこで、上告人A、同B、同Cほか六名は、被上告人を相手方として、上告を申し立てた。(8)前記第一、二審の訴訟においては、被告たるDの訴訟を上告人A、同B、同Cにおいて承継したことについては、右上告人三名からはもちろん、被上告人(原告)からもなんらの異議がでず、ただ被上告人の本訴請求の当否のみが争われてきた。以上の事実が認められる。

 以上の訴訟の経過にもとづいて、本件を検討するに、上告人A、同B、同Cの三名は、前記のとおり、みずから被告たるDの訴訟を承継する手続をとりこれを承継したものとして、本件訴訟の当初からなんらの異議を述べずにすべての訴訟手続を遂行し、その結果として、被上告人の本訴請求の適否について、第一、二審の判断を受けたものである。このように、第一、二審を通じてみずから進んで訴訟行為をした前記上告人三名が、いまさら本件訴訟の当事者(被告)が死者であるDであつたとしてみずからの訴訟行為の無効を主張することは、信義則のうえから許されないものと解するのが相当である(昭和二六年(オ)第五一八号、同三四年三月二六日最高裁判所第一小法廷判決、民集一三巻四号四九三頁参照)。したがつて、論旨は、結局、失当として排斥を免れない。

 同第二点について。

 原判決挙示の証拠によれば、所論の点についての原判決の認定した事実を肯認しうるところ、右認定した事実関係では、亡Dのした転貸に対し被上告人からの黙示の承諾があつたといえないとする原判決の判断は、是認できる。原判決には所論の違法はなく、所論は、結局、原審の事実認定を非難するに帰し、採用しがたい。

 同第三点について。

 原判決がその挙示の証拠により認定した事実関係のもとにおいては、被上告人のした本訴請求は権利の濫用といえないとした原判決の判断は、当審も、正当として支持することができる。原判決には、所論のような違法はなく、所論は、採用しがたい。

 上告人ら代理人小林茂夫の上告人E、同F、同G、同H、同I、同J関係の上告理由について。

 原判決に所論のような違法のないことは、上告人A、同B、同C関係の上告理由第二点および第三点について判断したとおりである。所論は採用しがたい。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

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