判例法理によれば、民間企業の使用者は、その事業を廃止するか否かについて、これを自由に決定できる権利を有するとされ、清算の終了した時点で労働契約は、原則として自動的に終了することになる。真実解散が認められれば、不当な動機・目的が併存していたとしても、解散の効力は影響を受けない(東京高決昭37・12・4労民集13巻6号1172頁[三協紙器事件・]など)。
もっとも、真実解散の場合であっても解雇に際し労働者に解雇条件の決定手続きへの参加の機会を与えず、また解雇を組合との団体交渉の継続中に突然提案するなど、使用者が組合や従業員と誠実な交渉を尽くす信義則上の義務を果たしていない場合には、解雇は解雇権濫用として無効とされることがある(大阪地決平成10・7・7労判747号50頁[グリン製菓事件]など)。
また、全事業の廃止に伴い全従業員を解雇した場合の判断基準としては、いわゆる整理解雇の四要件によるのでなく事業廃止の必要性と解雇手続きの妥当性との双方を総合的に考慮して決すべきとしたうえで、労働者の解雇は解雇権濫用とは認められないとしたものがある(仙台地決平成17・12・15労判915号152頁[三陸ハーネス事件])。
別会社によって事業が継続される場合には、別会社との間で新たな労働契約の締結が認められるか否かが問題となるが、結果的に労働者の救済を否定したものに、静岡フジカラーほか2社事件(東京高判平成17・4・27労判896号19頁、静岡地判平成16・5・20労判877号24頁)、東京日新学園事件(東京高判平成17・7・13労判899号19頁)がある。
これに対して、タジマヤ(解雇)事件(大阪地判平成11・12・8労判777号25頁)や勝英自動車学校(大船自動車興業)事件(東京高判平成17・5・31労判898号16頁)では、事業譲渡に関する法理に基づき、第一交通産業(損害賠償)事件(大阪地堺支判平成18・5・31判タ1252号223頁)や第一交通産業ほか(佐野第一交通)事件(大阪高判平成19・10・26労判975号50頁)、サカキ運輸ほか(法人格濫用)事件(福岡高判平成28.2.9、長崎地判平成27.6.16労判1121号20頁)では、法人格否認法理の援用によって、また、新関西通信システムズ事件(大阪地決平成6.8.5労判668号48頁)や日進工機事件(奈良地決平成11.1.11労判753号15頁)では、実質的同一性の法理によって、それぞれ別会社への労働契約の承継が認められている。