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2024年06月18日
宅地建物取引業者の説明義務11 第11章 心理的瑕疵

第11章 心理的瑕疵

 

1 隣人

 

大阪高判平成16年12月2日判タ1189号275頁

隣人から苦情がある土地建物を購入したXに対し、売主であるYはそのことを説明しなかったことにつき説明義務違反があり、売主からの仲介業者であるY会社は、購入希望者であるXに重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される、隣人から苦情のあった件を説明しなかったもので、Xに対する説明義務違反があり、Y両名は売買価格の2割の損害賠償義務がある。

 1 Xは、平成14年3月16日にY1、Y2から宝塚市所在の本件土地建物(Y1持分20分の3、Y2持分20分の17)を2280万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同年5月に代金を支払ってその所有権を取得したが、その直後に、本件建物はその西側隣人Aとのトラブルによって居住の用に耐えないことが判明したとして、主位的には、売主であるY1、Y2及びその仲介業者であるY3に対し、YらはXに対する説明義務に違反し、またY1、Y2はXを欺罔したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自2833万2516円及び遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y1、Y2に対し、本件土地建物の売買契約は錯誤により無効であるとして、不当利得返還請求権に基づき、各自2280万円及び遅延損害金の支払を求めた。1審は、Xの請求をいずれも棄却し、本判決はその控訴審判決である。なお、控訴審においては、X側の伸介業者であるZがXに補助参加している。

  2 本件の中心争点は、事実認定に関しては、①Y1、Y2とAとの過去のトラブルの内容、②Y3の担当者Bは、Zの担当者Cに対して、Y1、Y2とAとの過去のトラブルをXに伝えるよう依頼していたか否か、③売買契約締結の際のY1及びBの説明内容などであり、法的評価に関しては、④売主であるY1、Y2はいかなる場合に、売買契約の対象物そのものではなく、本件土地建物の隣人についてまで説明義務を負うのか、⑤売主側の仲介業者であるY3はいかなる場合にAに関する説明義務を負うのか、またその履行方法、などである。さらに、Yらの不法行為責任が肯定される場合には、Xの損害額も問題となる。

  3 1審判決は、①平成11年11月に本件土地建物に引っ越してきたY1、Y2は、翌日には、Aから「子供がうるさい」などと怒鳴られ、平成12年3月には洗濯物に水をかけられたり、泥を投げ付けられたりし、自治会長や警察に相談するなどしていた、また平成14年3月3日にY3の別の担当者とZの別の担当者がX以外の購入希望者を本件土地建物に案内していたところ、Aが大声でうるさいと苦情を述べたことがあった、②これを聞いたBはCに、隣人Aの件をXに説明するよう依頼したが、CはXにその説明をしなかった、③Bは重要事項説明に用いる報告書に「西側隣接地の住人の方より、騒音等による苦情ありました。」と記載した、また、Y1は、売買契約締結の際に、Xから尋ねられて、Aからうるさいと言われて子供部屋を東側に移動させたことがあるが、その後はAから怒られたことがないなどと説明した、と認定した。その上で、④Y1、Y2の説明義務違反については、宅建業者であるY3に媒介を委託している以上、自らが説明を求められた事項につき事実に反する説明をし、または取引上重要な事項をあえて秘匿したような場合を除き、説明義務違反は認められないとし、本件においてはかかる説明義務違反の事実はないと判断した。また、⑤Y3の説明義務違反については、隣人に関する事情は宅地建物取引業法上の重要事項とされていない上、その調査は困難かつプライバシー侵害のおそれがあることから一般的説明義務を否定しつつ、仲介業者が隣人に関する事情を認識した場合であって、その事情が客観的に明らかなものであり、購入希望者の契約締結の可否の判断に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合には、これをあえて秘匿することは許されないとの基準を定立した上で、その事情の伝達方法につき、相手方の仲介業者に上記事情を購入希望者に伝えるよう依頼することをもって足りるとして、Y3の説明義務違反を否定した。

  4 本判決は、上記①ないし③については1審判決とおおむね同様の事実認定をしながら(もっともAとのトラブルや経過はより詳しく認定され、またY1は契約締結の際に、Xから「同じ子供を持つ親として聞いておきたいのですが、近隣の環境に問題はありませんか。」などと尋ねられたにもかかわらず「全く問題ありません。」と答えたことが認定されている。)、Y1、Y3の説明義務違反を肯定した(Y2については、契約締結の場にいなかったことから説明義務違反が否定され、また、Xの錯誤の主張については、動機の表示がないとして否定されている。)。

  具体的には、本判決は、Y1の説明義務違反の点については、「売主が買主から直接説明することを求められ」、かつ、「その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合」には、売主は、信義則上、当該事項について「買主を誤信させるような説明をすることは許されない」として、Y1の契約締結の場での説明は、最近はAとの間で全く問題が生じていないという誤信をXに生じさせたと判断した。またY3の説明義務違反の点についても、Aが迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うとし、かつ、本件の事実関係の下では、BがZの担当者Cに事情説明を依頼していただけでは、説明義務を尽くしたとはいえないと判示している

 

東京地判平成18年1月20日判タ1240号284頁

不動産売買契約において、対象建物に白ありの侵食による欠陥があるとして、宅地建物取引業者である売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は認められたが、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求は認められなかった事例

 1 本件は、原告らが、被告Y1から、土地建物(以下、このうち建物を「本件建物」という。)を購入したところ(以下「本件売買契約」という。)、本件建物に白ありの侵食による欠陥があり損害を被ったと主張して、①売主である被告Y1に対して主位的に不法行為(宅地建物取引業法〔以下「宅建業法」という。〕32条、47条1号違反)、予備的に瑕疵担保責任に基づき、②売主の代理人である被告Y2に対して不法行為(宅建業法47条1号違反)に基づき、③原告らとの間で仲介契約を締結した被告Y3に対して主位的に不法行為(宅建業法32条、47条1号違反)、予備的に債務不履行(重要事項説明義務違反)に基づき、それぞれ損害賠償を求める事案である。

  本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとする一方で、瑕疵担保責任の主張を認めた。

  2 不法行為の主張について

(1)原告らは、不法行為の内容として、①宅建業法32条(宅地建物取引業者〔以下「宅建業者」という。〕は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地または建物の所在、規模、形質もしくは現在もしくは将来の利用の制限、環境もしくは交通その他の利便または代金、借賃等の対価の額もしくはその支払方法もしくは代金もしくは交換差金に関する金銭の貸賃のあっせんについて、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。)、②宅建業法47条1号(宅建業者は、その業務に関して、宅建業者の相手方等に対し、重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為をしてはならない。)違反を主張した。

 (2)不動産仲介契約は、準委任契約であり、不動産仲介契約を締結した宅建業者は善管注意義務を負うが(民法656条、644条)、宅建業法は、宅建業者に対し、各種の業務上の禁止規定・義務規定を設けており(宅建業法32条以下)、これらの規定は、善管注意義務の重要な具体的内容をなすものと解されている(塩崎勤「宅地建物取引業者の責任」川井健=塩崎勤編『新・裁判実務大系(8)専門家責任訴訟法』166頁~167頁)。

  したがって、本件において、原告らとの間で仲介契約を締結した宅建業者たる被告Y3に、宅建業法32条、47条1号違反があった場合は、被告Y3は不法行為責任を負うことがあるいうことができる。

  しかし、本判決は、被告Y3には、これらの規定違反は認められないとし、被告Y3の不法行為責任を否定した。

 (3)他方、被告Y1、Y2は、それぞれ売主、売主の代理人という立場にあったが、いずれも宅建業者であった。宅建業者は、直接の委託関係はなくても、業者の介入に信頼して取引をするに至った第三者に対して、信義誠実を旨とし、権利の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるとした判例があり(最2小判昭36.5.26民集15巻5号1440頁)、学説上も、この判例理論に異論を唱える者は見当たらないとされている(塩崎・前掲167頁~168頁)。

  本件において、売主である被告Y1、売主の代理人である被告Y2が宅建業者であることが、それぞれの注意義務についていかなる影響を及ぼすかについては検討を要するところと思われるが、本判決は、そもそも被告Y1、Y2には、宅建業法32条、47条1号違反に該当する事実は認められないとして、被告Y1、Y2の不法行為責任を否定している。

  3 債務不履行の主張について

 また、原告らは、仲介契約を締結した被告Y3に対し、仲介契約上の重要事項説明義務違反の債務不履行を主張したが、本判決は、被告Y3には、重要事項説明義務違反が認められないとし、被告Y3の債務不履行責任を否定している。

  なお、上記のとおり、本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないものとしているが、この点に関しては、仲介業者(宅建業者)は、鑑定・評価人ではないのであるから、隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はないと解する見解があり(明石三郎『不動産仲介契約の研究』210頁~211頁)、本判決が、被告らが白ありによる建物の被害について特別な知識を持っているとは認められていないことを被告らの責任を否定した理由の1つとしていることに留意すベきと思われる。

  4 瑕疵担保責任について

 本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとしたが、瑕疵担保責任の主張は認めた。

  被告Y1は、瑕疵の有無につき、本件建物は本件売買契約当時既に建築後約21年(ただし、被告Y1の主張上は約20年)を経過していた中古建物であるから、瑕疵の有無は建築後約21年を経過した建物として判断すべきである旨主張した。しかしながら、本判決が指摘するように、本件売買契約は、居住用建物をその目的物の一部とする土地付き建物売買契約であり、そのような売買契約においては、取引通念上、目的物たる土地上の建物は安全に居住することが可能であることが要求されるものと考えられるから、本件建物が白ありにより土台を侵食され、その構造耐力上、危険性を有していたといえる以上、本件建物が本件売買契約当時既に建築後約21年を経過していた中古建物であり、また、現況有姿売買とされていたことを考慮しても、本件建物には瑕疵があったといわざるを得ないと思われる。

  その上で、本判決は、事案に則して、相当因果関係のある信頼利益の範囲での原告らの損害賠償請求を認めている。

 

東京高判平成20年5月29日判時2033号15頁

売買の対象となった宅地について、隣人の強迫的言辞のため事実上建物建築が制限されることが、一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合として、民法570条の瑕疵に当たるとされた事例

 

東京高判平成2年1月25日金判845号19頁

1、ともに宅建業者である売主と買主間の土地売買契約において、売買の目的とされた本件土地に関しては白子川の拡幅計画があって本件土地の3分の1が右計画部分に含まれ、同部分には建物を建築させない行政指導がなされており、これに反する建築確認申請は事実上確認を得るのが難しいこと、さらに敷地面積の計算上からも同部分は除いてほしてとの意向を示された。このような行政指導に基づく建築規制が存することは買主にとって重要な事柄であり、売主としても右事実を容易に買主に説明でき、またその重要性を認識しうる職業的立場にあったことからすれば、売主には売買契約の締結にあたって右建築規制の存在について買主に説明すべき義務があるものと認められ、この説明義務は売買契約における信義則から導かれる広義の契約上の附随義務の一種であるから、売主の右義務の不履行を理由に買主は売買契約を解除することができる。

2、売主及び買主がともに宅建業者である土地取引においては、買主にも業者としての専門的知見と調査が期待されるのであり、買主がこれを欠いたために不十分な情報に誤導されて損害を被ったときは、買主もまた過失の責任を負うべきであり、売買契約において手付金倍返しの約定による損害賠償額の予定が合意されていても、裁判所はその合理的意思解釈と公平の見地から買主の右過失を考慮して売主の支払うべき損害額を定めることができ、民法420条1項後段の規定はこのような減額までも禁ずるものではない。

 

 

大阪高判平成16年12月2日判タ1189号275頁

居住用不動産の売買において、隣人から苦情がある土地建物を購入したXに対し、売主であるYはそのことを説明しなかったことにつき説明義務違反があり、売主からの仲介業者であるY会社は、購入希望者であるXに重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される、隣人から苦情のあった件を説明しなかったもので、Xに対する説明義務違反があり、Y両名は売買価格の2割の損害賠償義務がある。

1 Xは、平成14年3月16日にY1、Y2から宝塚市所在の本件土地建物(Y1持分20分の3、Y2持分20分の17)を2280万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同年5月に代金を支払ってその所有権を取得したが、その直後に、本件建物はその西側隣人Aとのトラブルによって居住の用に耐えないことが判明したとして、主位的には、売主であるY1、Y2及びその仲介業者であるY3に対し、YらはXに対する説明義務に違反し、またY1、Y2はXを欺罔したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自2833万2516円及び遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y1、Y2に対し、本件土地建物の売買契約は錯誤により無効であるとして、不当利得返還請求権に基づき、各自2280万円及び遅延損害金の支払を求めた。1審は、Xの請求をいずれも棄却し、本判決はその控訴審判決である。なお、控訴審においては、X側の伸介業者であるZがXに補助参加している。

  2 本件の中心争点は、事実認定に関しては、①Y1、Y2とAとの過去のトラブルの内容、②Y3の担当者Bは、Zの担当者Cに対して、Y1、Y2とAとの過去のトラブルをXに伝えるよう依頼していたか否か、③売買契約締結の際のY1及びBの説明内容などであり、法的評価に関しては、④売主であるY1、Y2はいかなる場合に、売買契約の対象物そのものではなく、本件土地建物の隣人についてまで説明義務を負うのか、⑤売主側の仲介業者であるY3はいかなる場合にAに関する説明義務を負うのか、またその履行方法、などである。さらに、Yらの不法行為責任が肯定される場合には、Xの損害額も問題となる。

  3 1審判決は、①平成11年11月に本件土地建物に引っ越してきたY1、Y2は、翌日には、Aから「子供がうるさい」などと怒鳴られ、平成12年3月には洗濯物に水をかけられたり、泥を投げ付けられたりし、自治会長や警察に相談するなどしていた、また平成14年3月3日にY3の別の担当者とZの別の担当者がX以外の購入希望者を本件土地建物に案内していたところ、Aが大声でうるさいと苦情を述べたことがあった、②これを聞いたBはCに、隣人Aの件をXに説明するよう依頼したが、CはXにその説明をしなかった、③Bは重要事項説明に用いる報告書に「西側隣接地の住人の方より、騒音等による苦情ありました。」と記載した、また、Y1は、売買契約締結の際に、Xから尋ねられて、Aからうるさいと言われて子供部屋を東側に移動させたことがあるが、その後はAから怒られたことがないなどと説明した、と認定した。その上で、④Y1、Y2の説明義務違反については、宅建業者であるY3に媒介を委託している以上、自らが説明を求められた事項につき事実に反する説明をし、または取引上重要な事項をあえて秘匿したような場合を除き、説明義務違反は認められないとし、本件においてはかかる説明義務違反の事実はないと判断した。また、⑤Y3の説明義務違反については、隣人に関する事情は宅地建物取引業法上の重要事項とされていない上、その調査は困難かつプライバシー侵害のおそれがあることから一般的説明義務を否定しつつ、仲介業者が隣人に関する事情を認識した場合であって、その事情が客観的に明らかなものであり、購入希望者の契約締結の可否の判断に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合には、これをあえて秘匿することは許されないとの基準を定立した上で、その事情の伝達方法につき、相手方の仲介業者に上記事情を購入希望者に伝えるよう依頼することをもって足りるとして、Y3の説明義務違反を否定した。

  4 本判決は、上記①ないし③については1審判決とおおむね同様の事実認定をしながら(もっともAとのトラブルや経過はより詳しく認定され、またY1は契約締結の際に、Xから「同じ子供を持つ親として聞いておきたいのですが、近隣の環境に問題はありませんか。」などと尋ねられたにもかかわらず「全く問題ありません。」と答えたことが認定されている。)、Y1、Y3の説明義務違反を肯定した(Y2については、契約締結の場にいなかったことから説明義務違反が否定され、また、Xの錯誤の主張については、動機の表示がないとして否定されている。)。

  具体的には、本判決は、Y1の説明義務違反の点については、「売主が買主から直接説明することを求められ」、かつ、「その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合」には、売主は、信義則上、当該事項について「買主を誤信させるような説明をすることは許されない」として、Y1の契約締結の場での説明は、最近はAとの間で全く問題が生じていないという誤信をXに生じさせたと判断した。またY3の説明義務違反の点についても、Aが迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うとし、かつ、本件の事実関係の下では、BがZの担当者Cに事情説明を依頼していただけでは、説明義務を尽くしたとはいえないと判示している。

  5 本件は、事実認定にそれほど差がないのに1審と控訴審で結論が分かれた事案であり、特に、重要事項説明のための報告書に隣人Aに関する注意を喚起する記載を加え、X側の仲介業者であるZに隣人Aの事情を伝達するよう依頼までしていたY3の責任については異論もありうると思われる。また、1審判決及び本判決の事実認定によれば、Zが責任を負うことは明らかであり、なぜZが被告とされていないのかという疑問も生じる。ただ、Y3の主張によっても、本件土地建物の査定金額は口頭弁論終結時に1307万円しかなく、売買契約締結後約2年間の地価変動からすると、約43%も価格が下落するとは考え難いから、当初の価格設定自体に大いに問題があったと推認できる事案であって、その意味では、特殊な事案における事例判断にすぎないとも考えられる。

 

京都地判平成12年3月24日判タ1098号184頁

「全戸南向き」と宣伝してマンションを販売したが、実際には「全戸南向き」でないことが判明した場合、売主に不正確な表示・説明を行わないという信義則上の付随義務の違反があったとして損害賠償責任が認められた事例

 1 Xらは、平成6年に、不動産会社であるYから、京都右京区梅ヶ畑高鼻町所在のマンション「シエモア広沢北」を購入したが、その当時、右マンションが未完成であったため、モデルハウスで間取りの確認等を行って購入した。

  Yが作成したマンションのパンフレットには、「全戸南面・採光の良い明るいリビングダイニング」と記載され、新聞広告や折込チラシでも、「全戸南向き」、「全戸南向の明るい室内」と記載して宣伝されていたが、実際に完成したマンションはかなり西に向いていたため、Xらは、Yのマンションの販売方法は詐欺または宅建業法に違反するか、説明義務に違反するなどと主張し、Yに対して、マンションの価値減少損害、光熱費増加損害、慰謝料等の賠償を求めた。

  2 本判決は、本件のようなマンションの売買に当たっては、マンションの向きによって、日照時間が異なり、日照の確保、生活の快適性に大きな影響を及ぼすものであるから、マンションの向きは、売買契約を締結するかどうかを判断する際に重視される事項の1つであるとしたうえ、Yは、パンフレット、新聞広告、折込チラシにおいて、マンションは「全戸南向き」であると宣伝したが、実際は62度11分西方向に向いているから、Yは、マンションの向きにつき、不正確な表示・説明をしたものというべきであるとし、Yのマンションの売買契約に付随する信義則上の義務違反の責任を肯定し、Yに対して慰謝料と弁護士費用の支払を命じた。

 

2 自殺物件

 

大阪地判平成11年2月18日判タ1003号218頁

既存建物の取り壊しを目的とする土地及び建物の売買契約において、右建物内で売主の母親の縊首自殺があったことは民法570条にいう隠れた瑕疵に該当しない

 1 本件は既存建物を取り壊して、新たに建物を建てて、その敷地と新築建物を第三者に売却する目的で平成10年3月12日、建物とその敷地を被告らから購入した原告が、右建物を取り壊したのちに、建物内で平成8年に被告らの母親が首吊り自殺していることを知るに至り、右事実は本件売買契約の目的物である土地及び建物の隠れた瑕疵に該当するとして、本件売買契約を解除したうえ、違約金の請求をしているという事案である。

  2 本判決は、本件土地及び建物を買い受けたのは、本件建物に原告が居住するのではなく、本件建物を取り壊した上、本件土地上に新たに建物を建築して、これを第三者に売却するためであり、遅くとも平成10年5月12日までに本件建物は原告によって解体されていることから、本件売買契約における原告の意思は主として本件土地を取得することにあったものと認められるとしたうえで、解体して存在しなくなった本件建物において、被告らの母親が平成8年に首吊り自殺したという事実が本件土地の取得においていかなる意味を有するかという点が本件の争点であるとしたうえで、確かに継続的に生活する場所である建物内において、首吊り自殺があったという事実は民法570条が規定する物の瑕疵に該当する余地があると考えられるが、本件において問題とされているのは、かって本件土地上に存していた本件建物内で平成8年に首吊り自殺があったという事実であり、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない1空間内におけるものに変容していることや、土地にまつわる歴史的背景に原因する心理的な欠陥は少なくないことが想定されるのであるから、その嫌悪の度合いは特に縁起をかついだり、因縁を気にするなど特定の者はともかく、通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的であると判断される程度には至っておらず、このことからして、原告が本件土地の買主となった場合においてもおよそ転売が不能であると判断することについて合理性があるとはいえないとして、本件建物内において、平成8年に首吊り自殺があったという事実は、本件売買契約において、隠れた瑕疵には該当しないとするのが相当であるとした。

  3 参考裁判例として、土地建物の売買において、右建物内において売主の親族が首吊り自殺をしていたことが目的物の瑕疵に該当するとした浦和地川越支判平成9年8月19日判タ960号189頁、土地建物の売買について、売主の前所有者が約7年前に同建物に付属している物置内で農薬自殺したことが、隠れた瑕疵に該当するとした東京地判平成7年5月31日判タ910号170頁、家族の居住のため、マンションを購入したが、そのマンションで6年前に縊首自殺があったことは隠れた瑕疵に該当するとした横浜地判平成元年9月7日判タ729号174頁、売買の目的物となった建物内で縊死した事実が年月の経過その他の事情によって目的物の隠れた瑕疵に当たらないとされた大阪高判昭和37年6月21日判時309号15頁がある。

 

東京地判平成20年4月28日判タ1275号329頁

1 マンションを販売した不動産業者に、当該マンションで飛び降り自殺があったことを告知、説明すべき義務があるとされた事例

2 上記義務違反によって原告が被った損害は、性質上、損害額を立証することが極めて困難であると認められるとして、民事訴訟法248条の趣旨を援用して、慰謝料名目の損害賠償を命じた事例

 1 本件は、1棟のマンションを購入したXが、売主であるYに対し、同マンション販売に際し、飛び降り自殺があったことを告知、説明しなかったことが、不動産を取り扱う専門業者としての告知、説明義務に違反すると主張して、慰謝料の支払を求めた事案である。

  2 Xは、不動産業者Yから、代金1億7500万円で9階建マンション1棟を購入したが、間もなく、約2年前に当該マンションから居住者Aが飛び降り自殺した事実があったことを知った。そこで、Xは、Yに対し、Yが当該マンションで飛び降り自殺があったことを知っていたのに、同事実を告げずに本件不動産を売却したなどと主張して、慰謝料の支払を求めた。Yは、Xに転売する1年前に、同マンションの所有者Bから、代金1億3000万円で上記マンションを購入したものであり、購入時の重要事項説明書には、売主Bの娘Aが道路に転落する死亡事故があったとの記載があったが、YからXに販売する際の重要事項説明書には、当該事実の記載もなかった。Xは、本件訴訟物を慰謝料請求権とし、飛び降り自殺があったことを知らずに購入したことによる損害につき、Yの仕入価格とXヘの販売価格との差額に相当する4500万円、懲罰的損害賠償2500万円の合計7000万円と構成している(請求減縮前の請求額は2億5452万円余であった)。

  Yは、前記重要事項説明書の記載から調査したものの、転落事故が飛び降り自殺であったことは分からなかったなどと争ったが、本判決は、Yは、売主Bから直接買い受けたものであり、XがAの子らから、同マンションの価格が、Aの自殺があったため下がってしまったなどと聞いていたことなどから、当時のY買入担当者が具体的事情を知らなかったとは考えられないとし、同人が急に退職して連絡がとれなくなったとしても、Yの従業員が知っていたと認められる以上、Yとしての認識はあったとして、告知説明義務を認めた。

  3 損害額について、Xは、かなり漠然とした主張をしており、Yの仕入価格とXへの販売価格との差額に相当する4500万円については、「慰謝料と言い換える」と主張し、同マンション購入に際して支出した費用額等も主張はするものの、2500万円については、詐欺的不法行為による懲罰的損害賠償であると主張している。これに対し、Yは、Yの購入価格がXへの販売価格として適正価格であるとはいえないし、賃料収入に着目した収益物件として売買したのであって、死亡事故の後も収益に減少はなく、原告に損害はないと争った。本判決は、X主張の4500万円は、経済的損害を含める趣旨であると善解した上で、Xが主張、立証した出費(積極損害)について検討し、告知説明義務違反との因果関係を否定し、消極損害について①賃料収入の減少、②収益物件としての賃貸マンションの利回り、③自殺物件であることによる価格の低落等に関する判断を示した上で、証拠関係によって経済的損害を各側面から検討しても、その全容を1義的に特定して認定するには至らないとし、民事訴訟法248条の趣旨に鑑み、Xの精神的損害と合わせて損害額を2500万円と評価するとした。

 

3 その他

 

大阪地判昭54.12.27判タ415号155頁

一、不動産売買の仲介契約において、仲介業者の仲介により不動産の売買契約が成立した以上、仲介人の報酬請求権が発生し、かりに仲介人が仲介業務を行う過程で善管注意義務を怠ったとしても、右報酬請求権の発生が妨げられるものではない。

二、不動産売買の専門業者である仲介人は、その仲介にあたり、大学教授の未亡人で不動産取引について素人である委託者が判示のような拙劣かつ不適当な土地の売買をしないよう適切な助言をして右売買の仲介をなすべき善管注意義務を負い、これを怠ったときは、損害賠償義務がある。

2、売主から1区画の土地の売買の仲介を依頼された不動産仲介業者が、その仲介により、巾50センチメートルのそれだけでは使用価値のない土地部分を残して、他の大部分の土地を売却する旨の売買契約を成立させた場合において、委託者に右の如き拙劣かつ不適当な売買をしないよう適切な助言をしない限り、善管義務を怠ったものとして、不動産仲介業者の委託者に対する損害賠償責任の認められた事例

 依頼者が記念碑を建立するための土地を残して残部を売却する契約をしたところ、残った土地では記念碑が建てられなかったという事案において、依頼者は売買契約の内容を認識していたものであるが、宅建業者には依頼者が拙劣・不適当な売買をしないよう適切な助言をすべき義務を認めたものがある。

 

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