金融法の内容(金融商品取引法を含む)
金融法は、司法試験の科目とされていない。
法務省は司法試験の選択科目とするためには、学問として確立していること(受験生から見れば学習範囲が明確であること)、大半の法科大学院で4単位以上であることを目安としている。
司法試験の選択科目の場合、合格に必要な勉強時間としては、法科大学院の授業・ゼミが最低でも合計8単位は必要であろう。
司法試験の選択科目とすべきかどうか議論があった。しかし、
① 行政法や民事法と学習範囲が重複するし、
② 対象となる法律が業種ごとに多岐にわたること、
③ 金融機関に対する公法上の規制法(銀行法など業種ごとに異なる)、
④ 投資関係に関する金融機関に対する民事の損害賠償請求事件、
⑤ 金融機関の融資に関する取締役の善管注意義務に関する損害賠償請求事件など、
⑥ 金融法といっても、教授によって講義内容が異なり、学問的に確立しているとはいえないのではないか
⑦ 金融法は司法試験合格後に、実務家となってから、必要とされる人が勉強すればよい
⑧ 金融法は法科大学院によって開講されていない場合もあるし、開講されている単位数にバラツキがある。
と指摘されて、選択科目とされていない。
金融法といっても、
・金融商品取引法
・金融機関などに対する公法上の規制法(銀行法、貸金業法、出資法など)、
・金融機関などに関係する民事法、
・投資関係に関する金融機関に対する民事の損害賠償請求事件
・金融機関の融資に関する取締役の善管注意義務に関する損害賠償請求事件など、
・民法と金融法の関連(民法債権総論、担保物権法など)
・民事手続法との関連(民事訴訟法、民事執行法、民事調停法など)
・倒産法との関連(破産法、民事再生法、会社更生法、会社法のうち特別清算、特定調停法など)
・社債
・債権譲渡等を活用した資金調達手法(ファクタリング、売掛債権担保融資、シンジケートローンなどの新しい資金調達手法)
・ABL(流動資産一体型担保)、動産譲渡担保と債権譲渡担保を活用した資金調達手法
・資産流動化取引
・債権流動化取引の意義と基本的スキームの理解
・ 不動産流動化取引の意義と基本的スキームの理解
・電子記録債権法
など、法科大学院・教授によって講義内容が異なり、学問的に確立しているとはいえないのではないかと指摘されている。
◎金融商品取引法について
当時の証券取引法については、上場企業・証券会社・株式投資家等の特別法という印象が強かった。
しかし、証券取引法が金融商品取引法と名称が改正され、金融商品取引法の適用される対象が金融商品一般となった。その意味では、金融商品取引法は金融商品の一般法となったといっても過言ではない。それに伴い、概念定義が抽象度を増し、条文の数も増え、準用条文や政令委任などが増えて複雑となった。
また、例えば、会社法では「募集株式の発行等」という概念とは違い、金融商品取引法では「売出し」などの独自の概念が用いられている。
金融商品取引法の条文、準用条文、政令、内閣府令は、条文の数が多いので、大変である。また、準用条文による読み替えも、
概念の定義、制度趣旨が丁寧に押さえ、テクニカルタームをまずは覚え、制度趣旨から考えて、金融商品取引法の規制からすると、こうなるはずと考えながら読むと、理解しやすいと思われる。
名称が似ていて類似の別の概念・用語は、定義にさかのぼれば区別できるし、それぞれの要件・効果も確認しておくとよい。
判例として、金融商品取引法や旧・証券取引法に関する最高裁判決等。類似の法律として、商品取引所法に関する裁判例がある。
ただし、金融商品取引法は毎年改正されていることには、留意が必要である。
金融商品取引関係訴訟として、取引損害訴訟、差損金請求訴訟、デリバティブ取引関係訴訟、外国証券取引関係訴訟があるが、金融商品取引法の対象となる以前に別の法律で規制されていた時代の裁判例も多いので、注意が必要である。
金融商品取引法は法科大学院でも開講している学校も少なく、2~4単位が多いとされている。
ただし、金融商品取引法は上場企業にとって必須であり、今後の裁判例の展開も見込まれる。
なお、金融商品取引法は公認会計士試験の必須科目であり、金融商品取引法の一部は不動産鑑定士試験の択一式試験の科目にも含まれている。
◎金融商品取引法
第1章 総則(第1条・第2条)
定義(2条)
1 金融商品(金融商品取引法の適用対象)
2 第1項有価証券(上場株券その他)
2 第2項有価証券
デリバティブ取引、信託受益権、集団投資スキーム持分(ファンド)、不動産証券化スキーム、不動産投資スキーム、排出権取引、外国証券等については第2項有価証券として金融商品取引法が適用される。
3 金融商品取引業
投資信託及び投資法人に関する法律に基づく投資信託・投資法人について、金融商品取引法が適用される。
資産の流動化に関する法律に基づく特別目的会社(SPC)、民法組合、投資事業有限責任組合(LPS、投資事業有限責任組合契約に関する法律)、有限責任事業組合(LLP、有限責任事業組合契約に関する法律 )であって信託業法が適用されないもの、発行者のための代理・媒介は、金融商品取引法が適用される。
例外的に、信託業法の適用される発行者の場合には信託業法で金融商品取引法が準用される。
4 開示に関する用語
募集、売出し、 私募
第2章 企業内容等の開示(第2条の2―第27条)
・発行市場における開示
1 有価証券届出書
2 目論見書
3 有価証券通知書
4 発行登録制度
・流通市場における開示
1 有価証券報告書
2 内部統制報告書
3 四半期報告書
4 臨時報告書
5 自己株券