第14章 税
東京地判昭和49年12月6日判タ322号190頁
宅地建物取引業者の業務上の注意義務違反による不法行為責任が認められた事例
Xは、不動産取引業者Yの申出によって土地を交換したところ、多額の所得税・地方税を賦課され、納税を余儀なくされた。
そこで、XはYを相手として、まず第1次的に、土地交換によってXに税金が賦課されたときにはYがこれを負担するとの確約があったと主張し、第2次的には、Yの社員らは税金の賦課という重要な事項について、故意に事実を告げなかったかまたは不実のことを告げたため、Xが不測の損害を被ったと主張して、納税額相当の金員の支払を求めた。
本判決は、Xの主張するがごとき確約が認められないとして第1次的主張を排斥したが、Yに判示のごとき業務上の注意義務違反があったとして第2次的主張を肯認したものである。
建物取引業者は、建設大臣または知事の免許という形で不動産取引に関する法律知識や土地、建物に関する技術的、専門的知識を有するものとして公認され、素人から当該事務の委託を引受けることを業とするものであるから、その注意義務は当該事務についての周到な専門家を標準とする高い程度のものが一般に要求されているものといいうる(我妻『債権各論中巻』2663頁)。
そして、業者はその事務所ごとに、宅地建物取引主任者試験に合格し、登録を受けた者を専任の取引主任者として、1人以上置かねばならないものとされている(建物取引業法11条の2)ところ、右の試験は、宅地建物自体に関する知識のみならず、その取引に必要な民法、税法その他の法律上の知識、宅地建物の評価に関する知識にも及ぶものであるから、宅地建物についての税についても一応の知識をも備えているものと素人には期待されているものと解せられる。
したがって、本件のように、業者の申出によってその利益のために土地を交換するような場合にあっては、業者に対して、判示のごとき注意義務を要求したとしても、必ずしも苛酷なものとはいえないのではあるまいか。
但し判示のごとき理論を一般論として拡大することには問題があろう。