第8章 ④特許権等の権利回復要件の緩和
1.新旧対照表
改正される条文:特許法36条の2第6項、41条1項1号、43条の2第1項、48条の3第5項、112条の2第1項、184条の4第4項、184条の11第6項、別表11号
特許法36条の2第6項
(旧)
前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第四項に規定する期間内に当該翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、第2項に規定する外国語書面および外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
(新)
前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、第2項に規定する外国語書面および外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。ただし、故意に、第4項に規定する期間内に前項に規定する翻訳文を提出しなかつたと認められる場合は、この限りでない。
特許法別表11号
(新設)
※特許法41条1項1号、43条の2第1項、48条の3第5項、112条の2第1項、184条の4第4項、184条の11第6項につき省略
2.施行期日
公布の日から起算して2年を超えない範囲内(令和5年5月20日まで)において政令で定める日
3.改正法の概要等
特許法では、以下のとおり、手続の期限を徒過してしまった場合に、出願人等の手続を行うべき者が一定の不利益を被る旨の規定があります。
外国語書面出願の翻訳文の提出期間の徒過(36条の2第5項)、出願審査の請求期間の徒過(48条の3第4項)
→ 特許出願が取り下げられたものとみなされる
外国語でされた国際特許出願の翻訳文の提出期間の徒過(184条の4第3項)、在外者の特許管理人の選任期間の徒過(184条の11第5項)
→ 国際特許出願が取り下げられたものとみなされる
特許出願・または実用新案登録出願に基づく優先権主張期間の徒過(41条1項1号)、パリ条約の規定による優先権主張期間の徒過(パリ条約4条C(1))
→ 優先権を主張できない
特許料の追納期間の徒過(112条4項乃至6項)
→ 特許権が消滅したものとみなされ、・または初めから存在しなかったものとみなされる
そして、実体的には保護を受けるための要件を備えた発明等が、軽微な手続のミスにより保護を受けられず、権利として活用されないこととなるなど、このような規定による権利の喪失が出願人等にとって酷な場合も存在することから、一定の場合には、上記の規定により失われた権利を回復する制度が設けられています(特許法36条の2第6項、41条1項1号、43条の2第1項、48条の3第5項、112条の2第1項、184条の4第4項、184条の11第6項)。
特許法では、手続をすることができなかったことについて正当な理由があることが、これらの権利回復の要件の1つとされていました。しかし、このような判断基準および立証負担が欧米諸国に比して厳格すぎるとの指摘があったこと、また実際にも権利回復が難しい状況となっていたことなどを踏まえ、令和3年特許法改正により、上記の要件が手続をしなかったことが故意によるものでないことに緩和されました。また、令和3年特許法改正により、このような権利回復手続は、経済産業省令で定めるところにより行うことができる旨が新しく定められました(手続の詳細については、改正法で調整しきれなかったため、経済産業省令において定める形になっています。)。このような権利回復手続では、回復手数料が徴収されます(特許法195条2項、令和3年改正後特許法別表11号)。
本改正により、出願人等による権利回復が容易になることが期待されますが、上記のとおり権利回復手続の詳細について経済産業省令で定められることとなりましたので、今後定められる経済産業省令の規定も確認する必要があることに留意が必要です。