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2024年07月21日
BOSS事件・ノベルティと商標法上の商品

BOSS事件・ノベルティと商標法上の商品

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      大阪地方裁判所判決/昭和61年(ワ)第7518号

【判決日付】      昭和62年8月26日

【判示事項】      被告が電子楽器に使用している商標を電子楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品であるTシャツ等に附して顧客に無償で配布する行為は、Tシャツ等を商品とする商標の使用にはあたらないとした事例

             (ボス商標事件)

【参照条文】      商標法2

             商標法25

【掲載誌】        無体財産権関係民事・行政裁判例集19巻2号268頁

             判例タイムズ654号238頁

             判例時報1251号129頁

【評釈論文】      特許管理39巻1号45頁

             判例評論352号201頁

 

 

事案の概要

 Xは、指定商品を被服、布製身回品、寝具類(第17類)とする「BOSS」なる商標の商標権者である。

一方、Yは、楽器等の製造販売業者であり、その製造販売する電子楽器に「BOSS」の文字と図形を組み合わせた商標(別紙商標目録)を使用しているが、電子楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルティ)であるTシャツ等に右商標を附して、電子楽器の購入者に対し抽選等によって無償で配付していた。

XはYに対し、商標権侵害を理由に損害賠償を求めた。

 本判決は、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の広告媒体等であるにすぎないかは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによって判定すべきであると判示したうえで、本件のTシャツ等はそれ自体を取引の目的としているものではなく、将来市場で流通する蓋然性も認められないから、電子楽器の単なる広告媒体にすぎないとして、Yの行為はXの商標権を侵害しないと判断した。

 

 

商標法

(定義等)

第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

2 前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。

3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。

一 商品又は商品の包装に標章を付する行為

二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為

四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為

五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為

六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為

七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号及び第二十六条第三項第三号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為

八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為

十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為

4 前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。

一 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。

二 音の標章 商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。

5 この法律で「登録商標」とは、商標登録を受けている商標をいう。

6 この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。

7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。

 

(商標権の効力)

第二十五条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

(商標権の効力が及ばない範囲)

第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。

一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標

二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標

三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標

四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標

五 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標

六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

2 前項第一号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。

3 商標権の効力は、次に掲げる行為には、及ばない。ただし、その行為が不正競争の目的でされない場合に限る。

一 特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号。以下この項において「特定農林水産物等名称保護法」という。)第三条第一項(特定農林水産物等名称保護法第三十条において読み替えて適用する場合を含む。次号及び第三号において同じ。)の規定により特定農林水産物等名称保護法第六条の登録に係る特定農林水産物等名称保護法第二条第二項に規定する特定農林水産物等(当該登録に係る特定農林水産物等を主な原料又は材料として製造され、又は加工された同条第一項に規定する農林水産物等を含む。次号及び第三号において「登録に係る特定農林水産物等」という。)又はその包装に同条第三項に規定する地理的表示(次号及び第三号において「地理的表示」という。)を付する行為

二 特定農林水産物等名称保護法第三条第一項の規定により登録に係る特定農林水産物等又はその包装に地理的表示を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

三 特定農林水産物等名称保護法第三条第一項の規定により登録に係る特定農林水産物等に関する広告、価格表若しくは取引書類に地理的表示を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に地理的表示を付して電磁的方法により提供する行為

 

 

 

       主   文

 

  原告の請求を棄却する。

  訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事   実

 

 第一 当事者の求めた裁判

 一 請求の趣旨

 1 被告は原告に対し、金一二七六万六三三一円を支払え。

 2 訴訟費用は被告の負担とする。

 3 仮執行の宣言

 二 請求の趣旨に対する答弁

 主文同旨

第二 当事者の主張

 一 請求原因

 1 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

  登録番号 第六九五八六五号

  出願日 昭和三九年三月二八日

  公告日 昭和四〇年八月五日

  登録日 昭和四一年一月二二日

  更新登録日 昭和六一年三月一三日

  指定商品 第一七類 被服、布製身回品、寝具類

 登録商標の構成 別添商標公報のとおり

 2 被告は、本件商標と同一の標章を附したTシャツ、トレーナー、ジャンパー等の衣類を訴外ジャックマン株式会社に製造させ、被告の取引先を通じて多数の消費者に販売し、又は無償で引渡してきた。

 右Tシャツ等は商標法にいうところの「商品」であり、しかも本件商標の指定商品に属するから、被告の右行為は原告の本件商標権を侵害する。

 3 原告は、本件商標を使用して衣類の製造、販売を業としていたが、被告の本件商標権侵害行為により、原告の主力取引先等から本件商標を附した商品についての出所の誤認混同を生じることを理由に取引の停止を通知され、主力取引先への販売が不能となった。被告の本件商標権侵害行為により、原告は、昭和五九年五月二〇日から同六一年八月二〇日までの間に売上利益の減少額一二七六万六三三一円の損害を被った。

 4 よって、原告は被告に対し、本件商標権侵害に基づく損害金一二七六万六三三一円の支払を求める。

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