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2024年08月12日
民治執行法の令和元年改正4 得手続の創設

得手続の創設

1 概要

民事執行法の改正により第三者からの情報取得手続が新たに創設されました。情報取得手続においては、裁判所が第三者に対して債務者の財産に関する情報提供を命ずる旨の決定をし、当該第三者が情報提供を行うことにより、債権者が債務者の財産に関する情報を取得できるようになります。第三者からの情報取得手続は、債権者が債務者の財産に関する情報を保有する第三者から直接情報を取得できるという点において、債務者に対してその財産に関する情報の開示を求める従来の財産開示手続と異なります。

 平成15年改正で立法化された債務者が自らの資産を自己申告する財産開示制度は,そもそも期待可能性に乏しく自らの開示には限界があるのではないかという見方が強まりました。そこで第三者からの情報取得が実現しました。

 当初,第三者からの情報取得は,銀行からの預金情報がその中心として審議されました。しかし,銀行預金は引き出そうと思えばいつでもできてしまう。多額の預金もあれば少額の預金もある。銀行預金情報だけでは決して十分な情報とは言えません。

 この点,株式や社債などの典型的な金融資産は差し押さえるべき執行対象資産にふさわしいものです。

今回「振替機関等」から「振替社債等に関する情報」を取得する手続きが定められることになったことは画期的なことです。この手続きによって上場株式,投資信託受益権,社債,地方債,国債などの財産情報の取得が可能になりました。

 また,重要な財産である不動産情報が登記所から提供されることになりました。

 また,個人が債務者である場合の最も重要な財産である給与債権の差押の申立てのために勤務先情報が得られることになりました。その第三者は市町村(特別区を含む)と厚生年金保険の実施機関等である日本年金機構,国家公務員共済組合,国家公務員共済組合連合会,地方公務員共済組合,全国市町村職員共済組合連合会,日本私立学校振興・共済事業団です。ただし,申立権者は「執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者」のうち,その請求権が「民事執行法151条の2第1項各号(扶養義務等)に掲げる義務に係る請求権又は人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権」のみとされました。

 さらに,今回の改正では財産開示手続の申立権者の範囲を拡大することとして,金銭債権についての強制執行の申立てをするのに必要とされる債務名義であれば,いずれの種類のものであっても,財産開示手続の申立てをすることができることとなりました。

 

裁判所がその債務名義を有する債権者からの申立てに応じて債務者以外の第三者から情報を取得するという手続です。債務者以外の第三者については、弁護士会照会と異なり、対象を限定列挙しています。限定列挙せずに照会先を包括的にすべきとの議論もありましたが、弁護士会照会と同じ条文になりかねず、実際に機能しないという指摘や、必要性の高い情報を個別的に対象とするべきという指摘もあり、限定列挙となりました。

弁護士の立場からすると債権回収しやすくするためにどんどん強力なものをやればいいと思いがちですが、特に学者の先生方から、第三者が全く関係のない他人の紛争に巻き込まれてしまうのではないかとの指摘もあり、謙抑的に作られました。

 

債権者が情報取得手続により第三者から取得できる情報は、①債務者名義の不動産(土地・建物)の所在地や家屋番号(以下「不動産情報」といいます。)、②債務者の有する預貯金口座の情報(以下「預貯金情報」といいます。)、③債務者名義の上場株式、国債等の銘柄や数等(以下「株式情報」といいます。)及び④債務者に対する給与の支給者(債務者の勤務先)(以下「勤務先情報」といいます。)の4種類であり、以下の表で整理するように、かかる情報の種別に応じて、情報提供義務を負う第三者の範囲、申立権者及び履践すべき手続が異なります。

取得対象の情報

情報提供義務を負う第三者の範囲

申立ての要件

 

 

 

申立権者

手続的要件

不動産情報

登記所

① 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者(新法第205条第1項第1号下段、同第207条第1項)

債務者に対する財産開示手続の前置が必要(新法第205条第2項)

預貯金情報

銀行等

② 債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者(新法第205条第1項第2号下段、同第207条第2項)

債務者に対する財産開示手続の前置は不要

株式情報

振替機関等

 

 

勤務先情報

市町村、日本年金機構等

養育費等の義務に係る請求権又は人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権について執行力ある債務名義の正本を有する債権者(新法第206条第1項)

債務者に対する財産開示手続の前置が必要(新法第206条第2項、同第205条第2項)

 

 

2 第三者からの情報取得手続の申立ての要件

以下では、対象情報の種別ごとに異なる点に留意しながら、第三者からの情報取得手続の申立要件について個別にみていきます。

 

(a) 申立権者

 

①不動産情報、②預貯金情報及び③株式情報に係る情報取得手続の申立権者は共通しており、(i)執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者、及び(ii)債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者です(新法第205条第1項、同第207条第1項)。

 

これに対して、④勤務先情報に係る情報取得手続の申立権者は、他の3種類の情報と比較して、情報取得手続に係る申立権者の範囲が限定されており、養育費等の義務に係る請求権又は人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権について執行力ある債務名義の正本を有する債権者のみに申立権が認められます(新法第206条1項)。勤務先情報は、その性質上、基本的には開示が想定されていない秘匿性の高い情報であり、また、債務者の生活基盤とも直結していることから、債務者の被る不利益とのバランスを考慮して、申立権者が限定されています。

 

(b) 手続的要件

 

① 強制執行開始のための一般的要件の充足

 

第三者からの情報取得手続は、強制執行の実効性を確保するための準備的手続であることから、「執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないとき」(新法第205条第1項但書、同第206条第1項但書、同第207条第1項但書)には、前述の4種類の情報のいずれを対象とする場合でも、情報取得手続の申立てを行うことができません。

 

強制執行を開始することができない場合の具体例としては、債務名義の正本が債務者に送達されていない場合(法第29条)や確定期限付債権の期限未到来である場合(法第30条1項)等が挙げられます。

 

②不奏功等要件の具備

 

4種類の情報のいずれを対象とする場合であっても、情報取得手続を行うためには、以下のいずれかの要件(いわゆる不奏功等要件)の具備が必要です((新法第205条第1項、同第206条第1項、同第207条第1項、同第197条第1項第1号、同第197条第1項第2号)。

先に実施した強制執行の不奏功の要件は、債務者のプライバシーや営業秘密に属する情報を強制的に取得するものですので、この手続を行う必要性が高い場合に限り、手続を実施するのが相当であると考えられたからです。

 

① 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったこと。

 

② 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったこと。

 

③財産開示手続の必要的前置

 

不動産情報及び勤務先情報に係る情報取得手続については、当該手続の申立てに先立って、後述する債務者に対する財産開示手続を実施している必要があり、財産開示手続において実施された財産開示期日から3年以内に限り、申立てを行うことができます(新法第205条第2項、同第206条第2項)。第三者からの情報取得手続は、債務者に対する財産開示手続の補充的な手段として位置付けられており、債権者の情報取得の必要性及び債務者の不利益等を勘案して、この要件が設けられました。

 

これに対して、預貯金情報及び株式情報に係る情報取得手続については、債務者に対する財産開示手続の前置は要求されていません。

 

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