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2024年08月18日
民治執行法の令和元年改正6 第6章 不動産に関する情報取得手続

第6章 不動産に関する情報取得手続

1 手続創設の必要性

不動産に関する情報取得手続とは、執行裁判所が、債務名義を有する債権者からの申立てにより、登記所から債務者の不動産に関する情報を取得する手続です。

 不動産は,一般に換価価値が高く,債務者の返済原資として重要な財産とみられており,債権回収のために債務者の不動産に対する強制執行の申立てをすることが必要な場面が多いでしょう。しかし,債権者が債務者名義の全ての不動産を調査することが必ずしも容易ではありませんでした。旧法では債務者が全国のどこかに不動産を持っていても情報を取得できず、名寄帳を弁護士会照会で取ろうとしても、なかなか出してくれないことが多かったり、市町村単位では取得できるものに限界があったりしましたが、今回は登記所から情報取得ができるようになりました。

民事執行制度の実効性を確保するため,強制執行の準備として不動産に係る情報取得を可能とする制度を創設することの必要性は非常に高いのです。

 他方,情報提供義務者が登記所という公的機関であることから,公的機関が一般的に負っている守秘義務等との関係が問題となりますが,情報提供にあたって財産開示手続が前置されることとされていることを踏まえると,債務者は自ら所有する不動産に係る情報を開示しなければならない立場にあり,債務者が開示義務を負っている情報と考えれば,個人情報として保護すべき必要性は相対的に低いと考えられます。これらの点を踏まえ,改正法において不動産に係る情報取得手続が創設されました。

2 申立要件

 申立権者の範囲,強制執行開始のための一般的な要件及びいわゆる不奏功等要件が必要であることは,財産開示手続の申立要件と同一です。

申立権者

「執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者」及び「債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者」です(205条1項)。

 

強制執行開始のための一般的な要件

「執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないとき」には不動産に関する情報取得手続の申立てをすることはできません(205条1項)。

 

 これらの要件のほかに,不動産に係る情報取得手続においては,債務者に対する財産開示手続において実施された財産開示期日から3年以内に限り行うことができるという財産開示前置の要件が必要とされます(民事執行法205条2項、民事執行規則187条3項)。これは,第三者からの情報取得制度はあくまで債務者に対する財産開示手続の補充的な手段として位置付けられると考えられることや,登記所の守秘義務や債務者の不利益との関係が考慮されたことによります。

 他方,財産開示手続においては,申立ての日前3年以内に財産開示期日において債務者が財産について陳述をしたものであるときは,財産開示手続を実施する旨の決定をすることができないとされている(民事執行法197条3項)のに対し,第三者からの債務者財産に係る情報取得手続においては,かかる再申立に関する期間制限の要件は設けられていません。

ウ 情報提供義務者等

 法務省令で定める登記所です(民事執行法205条1項本文)。登記所には,東京や大阪などの大規模なものから,支局や出張所など小規模なものまであるが,実務上情報提供の手続に対応できるか否かは,これから整備される登記所の情報管理体制の状況を踏まえる必要がある。そのため,情報提供義務を負う登記所の範囲については,法務省令に委ねられることとされたものです。

「民事執行法第二百五条第一項に規定する法務省令で定める登記所を定める省令(令和三年法務省令第十五号)」により、民事執行法第205条第1項

に規定する法務省令で定める登記所は、東京法務局とされています。

エ 申立書の記載事項

 申立書の記載事項は,①申立人,債務者及び情報の提供を命じられるべき者の氏名又は名称及び住所,代理人の氏名及び住所,②申立ての理由,③登記所に検索を求める土地等の所在地の範囲です(民事執行規則187条1項)。

 この点,①の債務者の記載に関しては,氏名又は名称及び住所のほかに,氏名又は名称の振り仮名,生年月日及び性別その他の債務者の特定に資する事項を記載しなければならないとされています(同条2項)。

但し,かかる記載は債権者が認識している範囲で記載すれば良く,これらの記載を欠いたことをもって直ちに不適法とはされませんが,不動産に関しては,不動産登記に記録又は記載された情報に基づき検索されることから,登記された情報が現在の情報と必ずしも一致しているとは限らないことからすると,改姓や転居をしている債務者については,債務者の特定に資する事項として旧姓や旧住所を記載しておくことが望ましい。

 また,③の検索を求める土地等の所在地の範囲については,例えば,「東京都」や「東京都及び埼玉県」などと記載する方法が考えられますが,「全国」とする記載も認められる。但し,検索の範囲が広くなると,より検索に要する時間が必要となり,結果として必ずしも債権者の利益に合致しないとの指摘がなされてます。

 

3 提供される情報

 提供を受けることができる情報は,「債務者が所有権の登記名義人である土地又は建物その他これらに準ずるものとして法務省令で定めるものに対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則(新民事執行規則187条1項3号)で定めるもの」(民事執行法205条1項)です。

 

「債務者が所有権の登記名義人である土地又は建物」以外の情報は,「これらに準ずるものとして法務省令で定めるもの」とされているが,地上権,永小作権,賃借権又は採石権や,債務者が表題部所有者として記録されているものなどが考えられる。

 また,「強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの」は,債務者が所有権の登記名義人である土地等(土地又は建物その他これらに準ずるものとして法務省令で定めるもの)の存否,また,これが存在する場合には,その土地等を特定するに足りる事項(民事執行規則189条)である。具体的には,土地については,所在,地番,地目及び地積,建物については,所在,家屋番号,構造,種類及び床面積が提供される情報として考えられる。

 

4 登記所からの情報取の施行日

令和3年5月1日から施行されています。

(附則5条参照)

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