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2020年01月09日
リミテッド・パートナーシップ(LPS)の租税法上の取り扱い『租税判例百選(第6版)』22事件

最2小判平成27年7月17日 民集69巻5号1253頁 判例タイムズ1418号77頁 金融・商事判例1479号10頁 判例時報2279号9頁 税務訴訟資料265号順号12700
所得税更正処分取消等,所得税通知処分取消請求事件
【判示事項】 1 外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号に定める外国法人に該当するか否かの判断の方法
2 米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが行う不動産賃貸事業に係る投資事業に出資した者につき,当該賃貸事業に係る損失の金額を同人の所得の金額から控除することができないとされた事例
【判決要旨】 1 外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号に定める外国法人に該当するか否かは,まず,①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから,当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討して判断し,これができない場合には,②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かについて,当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から,当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ,かつ,その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討して判断すべきである。
2 米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号に定める外国法人に該当し,上記リミテッド・パートナーシップが行う不動産賃貸事業に係る所得が上記リミテッド・パートナーシップに帰属するものと認められるという判示の事情の下においては,当該賃貸事業に係る投資事業に出資した者は,同人の総所得金額を計算するに当たり,当該賃貸事業に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額を同人の所得の金額から控除することはできない。
【参照条文】 所得税法2-1
       法人税法2
       所得税法26 、69-1


判決文
「 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1)ア Aら及び被上告人X1は,後記の各信託契約の締結に先立ち,C証券との間で,ファイナンシャル・アドバイザリー契約を締結するとともに,Aらが米国カリフォルニア州に所在する中古集合住宅(以下「本件建物1」という。)を,被上告人X1が米国フロリダ州に所在する中古集合住宅(以下「本件建物2」という。)をそれぞれ対象として,投資金額を1口20万ドルとする海外不動産投資事業への参加を申し込んだ。
 Aらは,本件建物1に係る投資事業に投資するため,平成12年12月頃,D銀行との間で,Aらを委託者兼受益者,同銀行を受託者とする信託契約をそれぞれ締結し,当該各信託契約に基づいて,同銀行に開設された口座に現金資産を拠出した。また,被上告人X1は,本件建物2に係る投資事業に投資するため,平成14年3月頃,D銀行との間で,被上告人X1を委託者兼受益者,同銀行を受託者とする信託契約を締結し,当該信託契約に基づいて,同銀行に開設された口座に現金資産を拠出した。
 イ D銀行は,ケイマン諸島の法令に基づいて設立された法人(E)とともに,米国デラウェア州の法令に基づいて設立された有限責任会社(F)との間で,平成12年12月19日付けで,デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法(Delaware Revised Uniform Limited Partnership Act)(以下「州LPS法」という。)に基づいて,同有限責任会社をジェネラル・パートナー,D銀行及び上記ケイマン諸島の法令に基づく法人をリミテッド・パートナーとするパートナーシップ契約(以下「本件LPS契約1」という。)を締結し,リミテッド・パートナーシップ(G)を設立した。また,D銀行は,米国デラウェア州の法令に基づいて設立された有限責任会社(H)との間で,平成14年3月28日付けで,州LPS法に基づいて,同有限責任会社をジェネラル・パートナー,D銀行をリミテッド・パートナーとするパートナーシップ契約(以下「本件LPS契約2」といい,本件LPS契約1と併せて「本件各LPS契約」という。)を締結し,リミテッド・パートナーシップ(I)を設立した(以下,本件各LPS契約により設立された各リミテッド・パートナーシップを「本件各LPS」と総称する。)。そして,D銀行は,本件各LPS契約に基づき,Aら及び被上告人X1が拠出した現金資産を本件各LPSに拠出し,これにより本件各LPSに係るパートナーシップ持分(partnership interest)を取得した。
 なお,米国におけるパートナーシップとは,米国各州の法律において認められている2名以上の者により設立される事業活動や投資活動を営むための組織体であり,そのうち,パートナーシップの債務に対して無限責任を負う1名以上のジェネラル・パートナーと,パートナーシップの債務に対して原則として出資額を限度とする有限責任を負うとともに当該事業活動に対する限定的な経営参加権を有する1名以上のリミテッド・パートナーとによって構成されるものが,リミテッド・パートナーシップとされている。
 ウ 本件各LPSは,それぞれ本件建物1又は本件建物2(以下,併せて「本件各建物」という。)を購入するとともにその敷地を賃借するなどした上で,平成17年頃までの間,当該建物を第三者に賃貸する事業を行っていた(以下,本件各LPSによるこれらの事業を「本件各不動産賃貸事業」という。)。
 エ 上記アの各信託契約は,C証券が企画した投資事業プログラムに基づく複合的な契約の一部であり,本件建物1の賃貸事業に係る上記プログラムにおいては,出資金2000万円(1口)につき,7年間における同建物の賃貸事業による現金収入が360万3000円,7年後の同建物の売却による現金収入が541万8000円である一方,同建物に係る減価償却費を必要経費として計上することなどにより不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の所得の金額から控除することにより,上記プログラムに基づく投資事業に投資した者が本来負担すべき所得税額及び住民税額が合計2350万5000円軽減されるものと想定されている。本件建物2の賃貸事業に係る上記プログラムについても,その仕組みは基本的に同一である。
 (2)ア Aらは,本件建物1の賃貸事業により生じた所得が同人らの不動産所得に該当するとして,その所得の金額の計算上生じた損失の金額を同人らの他の所得の金額から控除して税額を算定した上で,所得税の申告又は更正の請求をしたが,所轄税務署長は,当該賃貸事業により生じた所得が不動産所得に該当せず,上記のような損益通算をすることはできないとして,同人ら各自につき,それぞれ,平成13年分から同15年分までの所得税につき更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに,同16年分及び同17年分の所得税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 被上告人X1は,本件建物2の賃貸事業により生じた所得が同人の不動産所得に該当するとして,上記と同様の損益通算をした上で,所得税の申告又は更正の請求をしたが,所轄税務署長は,上記と同様の理由により,そのような損益通算をすることはできないとして,平成14年分の所得税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分及び更正処分,同15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに同16年分及び同17年分の所得税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 イ 上記アの各処分については,Aの平成13年分から同15年分までの所得税及び過少申告加算税の額を減額する更正及び賦課決定,Bの同16年分及び同17年分の所得税の額を減額する更正,被上告人X1の同14年分の所得税及び過少申告加算税の額を減額する更正及び賦課決定がそれぞれされている(以下,上記アの各処分のうち,上記各減額後の各更正処分を「本件各更正処分」,更正をすべき理由がない旨の各通知処分(ただし,原審においてその取消しを求める訴えが却下すべきものとされた被上告人X1の同14年分の所得税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を除く。)を「本件各通知処分」,上記各減額後の各過少申告加算税賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分,本件各通知処分及び本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)。
 3 原審は,本件各LPSが我が国の租税法上の法人には該当せず,我が国の租税法上の人格のない社団等にも該当しないとした上で,本件各LPSが行う本件各不動産賃貸事業により生じた所得は当該賃貸事業に係る投資事業に出資したAら及び被上告人X1(以下「本件出資者ら」という。)の不動産所得に該当するものであるから,本件各建物の減価償却費等を必要経費として不動産所得の金額を計算し,その不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは損益通算をした上で総所得金額及び納付すべき税額を算定すべきところ,上記のような損益通算をすることはできないとしてされた本件各処分は違法であるとして,これらを取り消すべきものとした。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1)ア 本件においては,本件各LPSが行う本件各不動産賃貸事業により生じた所得が本件各LPS又は本件出資者らのいずれに帰属するかが争われているところ,複数の者が出資をすることにより構成された組織体が事業を行う場合において,その事業により生じた利益又は損失は,別異に解すべき特段の事情がない限り,当該組織体が我が国の租税法上の法人に該当するときは当該組織体に帰属するものとして課税上取り扱われる一方で,当該組織体が我が国の租税法上の法人に該当しないときはその構成員に帰属するものとして課税上取り扱われることになるから,本件における上記の所得の帰属を判断するに当たっては,本件各LPSが所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号(以下「所得税法2条1項7号等」という。)に共通の概念として定められている外国法人として我が国の租税法上の法人に該当するか否かが問題となる。
 イ 我が国の租税法は組織体のうちその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを納税義務者としてその所得に課税するものとしているところ,ある組織体が法人として納税義務者に該当するか否かの問題は我が国の課税権が及ぶ範囲を決する問題であることや,所得税法2条1項7号等が法人に係る諸外国の立法政策の相違を踏まえた上で外国法人につき「内国法人以外の法人」とのみ定義するにとどめていることなどを併せ考慮すると,我が国の租税法は,外国法に基づいて設立された組織体のうち内国法人に相当するものとしてその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを外国法人と定め,これを内国法人等とともに自然人以外の納税義務者の一類型としているものと解される。このような組織体の納税義務に係る制度の仕組みに照らすと,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは,当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されているものということができる。そして,我が国においては,ある組織体が権利義務の帰属主体とされることが法人の最も本質的な属性であり,そのような属性を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる上,納税義務者とされる者の範囲は客観的に明確な基準により決せられるべきであること等を考慮すると,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かについては,上記の属性の有無に即して,当該組織体が権利義務の帰属主体とされているか否かを基準として判断することが相当であると解される。
 その一方で,諸外国の多くにおいても,その制度の内容の詳細には相違があるにせよ,一定の範囲の組織体にその構成員とは別個の人格を承認し,これを権利義務の帰属主体とするという我が国の法人制度と同様の機能を有する制度が存在することや,国際的な法制の調和の要請等を踏まえると,外国法に基づいて設立された組織体につき,設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから,日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白である場合には,そのことをもって当該組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当する旨又は該当しない旨の判断をすることが相当であると解される。
 以上に鑑みると,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては,まず,より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として,①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから,当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり,これができない場合には,次に,当該組織体の属性に係る前者の観点として,②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり,具体的には,当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から,当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ,かつ,その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される。
 (2)ア これを本件についてみるに,州LPS法は,同法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップがその設立により「separate legal entity」となるものと定めているところ(201条(b)項),デラウェア州法を含む米国の法令において「legal entity」が日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであるか否かは明確でなく,また,「separate legal entity」であるとされる組織体が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かについても明確ではないといわざるを得ない。そして,デラウェア州一般会社法(General Corporation Law of the State of Delaware)における株式会社(corporation)については,「a body corporate」という文言が用いられ(同法106条),「separate legal entity」との文言は用いられていないことなども併せ考慮すると,上記のとおり州LPS法において同法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップが「separate legal entity」となるものと定められていることをもって,本件各LPSに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているか否かを疑義のない程度に明白であるとすることは困難であり,州LPS法や関連法令の他の規定の文言等を参照しても本件各LPSがデラウェア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。
 イ そこで,本件各LPSが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体とされているか否かについて検討するに,州LPS法は,リミテッド・パートナーシップにつき,営利目的か否かを問わず,一定の例外を除き,いかなる合法的な事業,目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに(106条(a)項),同法若しくはその他の法律又は当該リミテッド・パートナーシップのパートナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し,それを行使することができる旨を定めている(同条(b)項)。このような州LPS法の定めに照らせば,同法は,リミテッド・パートナーシップにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに,リミテッド・パートナーシップ名義でされた法律行為の効果がリミテッド・パートナーシップ自身に帰属することを前提とするものと解され,このことは,同法において,パートナーシップ持分(partnership interest)がそれ自体として人的財産(personal property)と称される財産権の一類型であるとされ,かつ,構成員であるパートナーが特定のリミテッド・パートナーシップ財産(以下「LPS財産」という。)について持分を有しない(A partner has no interest in specific limited partnership property.)とされていること(701条)とも整合するものと解される。なお,本件各LPS契約において,本件各LPSが本件各建物及びその敷地の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の処分の目的のみのために設立され,当該目的を実施するために必要又は有益な範囲で上記の処分の権限を有すると定められていること(1.3条)は,上記のような州LPS法の規律に沿うものということができ,構成員である各パートナーが本件各LPSのLPS財産につき各自の出資割合に相当する不可分の持分を有すると定められていること(4.5条)についても,LPS財産の全体に係る抽象的な権利を有する旨をいうものにとどまり,本件各LPSのLPS財産を構成する個々の物や権利について具体的な持分を有する旨を定めたものとは解されず,パートナーが特定のLPS財産について持分を有しないとする州LPS法の上記規定の定めとそごするものではないということができる。
 上記のような州LPS法の定め等に鑑みると,本件各LPSは,自ら法律行為の当事者となることができ,かつ,その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから,権利義務の帰属主体であると認められる。
 (3) そうすると,本件各LPSは,上記のとおり権利義務の帰属主体であると認められるのであるから,所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するものというべきであり,前記2(1)のとおり,本件各不動産賃貸事業は本件各LPSが行うものであり,前記(1)アの特段の事情の存在もうかがわれないことなどからすると,本件各不動産賃貸事業により生じた所得は,本件各LPSに帰属するものと認められ,本件出資者らの課税所得の範囲には含まれないものと解するのが相当である。
 したがって,本件出資者らは,本件各不動産賃貸事業による所得の金額の計算上生じた損失の金額を各自の所得の金額から控除することはできないというべきである。
 5 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人らの請求のうち,本件各更正処分及び本件各通知処分の取消請求は理由がないから,第1審判決のうちこれらの請求を認容した部分をいずれも取り消し,これらの請求をいずれも棄却すべきである。また,被上告人らの請求のうち,本件各賦課決定処分の取消請求については,本件が例外的に過少申告加算税の課されない場合として国税通則法65条4項に定める「正当な理由があると認められる」場合に当たるか否かが問題となるところ,この関係の諸事情につき更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分のうち上記請求に係る部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。」

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